とあるお昼、セミナーの準備のため、共通プリンターの前で原稿が出てくるのを待っていたときのことです。
大平楽にお弁当を食べていたAくんが、こうたずねました。
「pollyannaさん、本って読みますか?」
うーむ、と私は詰まりました。こういう無邪気な質問にはどのように対処したらよいのでしょう。
「読む読む~!だいすき~♪」と答えるか?
そうすると、好きな本は何か、というもっとむつかしい質問がくるに決まってる。
好きな本について語ることは、自分の精神履歴を語ることにひとしい。
これは相当な覚悟がいるし、相手もシチュエーションも選ぶ。お酒が入ってるならまだしも、真っ昼間っから、リルケがどうの、と語れるだろうか。
だいたい更級日記の昔から、「本の虫」を自称するような女に、美人や幸せなおヨメさんがいたためしがない。
「私、本が好きなの~♪」とはなかなか口にしづらいところがあります。
かといって、まったく読まないとウソをつくのも、どうもなあ。
結局私は「そうねえ、読むかなあ」と言葉を濁しました。
すると、やっぱり来ましたね。「たとえばどんな本を読みますか?」
・・・お見合いじゃないんだから。
Aくんはカミュが好きとかで、今まさに、ゆかりご飯に箸をつっこみながらカミュを広げている。
おぼえているのは「異邦人」「シシュポスの神話」だけど、即座に不条理と実存について語れと言われると、ちと困る。
「最近は読んでないかな」とごまかすと、「え~? 読んでないんですか?」と疑わしげに言われてしまいました。あちゃ。
こういうときのために、ふだんからの心がけがだいじなのね。とつくづく反省した次第。
「好きな本はなんですか?」
考えておこう。