これは一言いわねば

 「ヌカカの結婚」(森川幸人著)が到着したので、さっそく読んだ。


 森川さんのきれいで不思議な絵とともに、さまざまな昆虫(というよりは動物)の性戦略が紹介されていて、とっても楽しいのだが、ひとつだけ。本当にひとつだけ、研究者として言わねばならないことが!!


 (読んでいない方にはネタばれしてしまって申し訳ないので、読む楽しみを優先する方は、これ以降は読まないでくださいませ)


 episode 2「イーピスのたくらみ」。

 ここには、女性だけしか飼うことのできないペット"イーピス"が登場する。飼い主が子どもを生むと、イーピスも子どもを生み、飼い主の子が女の子なら、その子はイーピスの子どもを飼える。でも、飼い主の子が男の子だったら、イーピスの子は殺されてしまう。


 ーーー性操作バクテリア研究者の皆さま、どきどきしませんか?


 さてイーピスは、自分の子どもの運命が心配なので、妊娠した飼い主に不思議なクスリを飲ませて、その子を女の子にしてしまった。それどころか、飼い主は以後、女の子ばかりを産むようになってしまったのだ。


 ーーー同僚の皆さま方、うれしくなりませんか?


 と・こ・ろ・が! 

 この小話の「謎解き」には、「ミトコンドリア」が紹介されているのです!宿主の性を操るのが、ミトコンドリアにとって都合がいいというような説明です。もちろん「こうした現象がミトコンドリアによるものかどうかはまだ確認されていない」と明記してあるものの・・・


 ここで、専門外の方々に解説をしましょう。


 多くの昆虫は、「ボルバキア (Wolbachia)」という細菌を、体の細胞の中に飼っています。この細菌は、飼い主である昆虫の卵の中にも入って、その子どもに感染して増えていきます。ところが、飼い主の精子には入ることができません。オスの飼い主にあたってしまったが最後、ボルバキアはもうそれ以上増えることができないのです。

 ということは、ボルバキアにとっては、飼い主がメスの卵をたくさん産んでくれた方がうれしいわけです。自分の仲間を移すことのできるメスの飼い主が増えるわけですから。

 そこでボルバキアは、飼い主にいたずらをします。

 まるでイーピスのように、オスの昆虫をメスにしてしまったり、メスがオスなしでメスしか産まないようにしてしまったり。


 こんな面白い細菌がいるので、てっきりこのボルバキア君の紹介かと思いきや、「ミトコンドリアですって~?」というのがショックだったわけです。(ミトコンドリアが性を操っているという話は聞いたことがありません)


 参考書籍をみると、「昆虫を操るバクテリア」(石川統著)などの本がまったくないので、そもそもボルバキアちゃんの存在を知らなかったのだろうか。編集者の人は何も言わなかったのかなあ。

 どうしよう。指摘すべきだろうか。今ごろは、誰かしらが指摘してるかなと思うけども。森川さんのブログがあればトラックバックするところだ。


*それでクニエさんも正義の目方さまも、私が読むまで種明かしをなさらなかったわけですね。