特定侵害訴訟代理業務試験(通称:付記試験)合格しました

 なんだその試験。

 弁理士が、特定侵害訴訟の訴訟代理人になる資格を得るための、地味でマイナーな試験です。
 これに合格した旨の「付記」を受けた弁理士は、弁護士と共同で特定侵害訴訟の訴訟代理人になることができます。

 別に付記を受けなくても、補佐人として訴訟のお仕事はできるので、足の裏の米粒(とっても食えないが、とらないと気持ち悪い)的な資格ではありますが、今年初めに一念発起して受験。一発で受かってよかった。
 合格率は、幅はあるもののだいたい50%前後の年が多いでしょうか。今年は59.1%とのことなので、やや高めのようです。

 どんな問題が出るか気になる方は、こちらをご覧ください。
令和4年度特定侵害訴訟代理業務試験問題及び論点の公表 | 経済産業省 特許庁

 ざっと振り返りを。

試験を受けるまでにしなきゃいけないこと

民法と民事訴訟法の基礎研修受講(e-ラーニング)

 大学等で民法と民事訴訟法の基礎知識を身につけた人は受講しなくてもよいのですが、その代わり、レポートを提出する必要があります。理系出身のわたしは受講必須。

 1回3時間の講義が、民法・民訴それぞれについて7回ずつあるので、全部で42時間。1月から3月にかけて、時間を見つけて受講しました。かなりのボリュームですが、めちゃくちゃおもしろかったです。

 試験では、民法・民訴に関する基礎知識を問う小問も出て、この小問対策には、基礎研修動画とそのテキストの復習が最適と言われています。事実そうでした(といっても時間がないので、わたしはテキストだけ復習しました……)。

能力担保研修

 付記試験を受けるためには、能力担保研修をすべて受講して修了する必要があります。全10回、45時間。平日夜コースか土曜コースかは選べます。
 この研修を、今なら対面でなくZoomで受けられる(コロナ禍なので)、というのが、今回受験を決めた理由のひとつです。

 講義に費やす時間もさることながら、起案の宿題が重量級。一週間の通常業務で疲れ果て、週末は講義か起案、という日々が、4月から8月中旬まで続きました。

試験対策でやったこと

村西ゼミ

 基礎研修の講師を担当されている弁護士の村西先生が、ご厚意で開いてくださっているゼミです。もちろん有料ですが、かけてくださっている熱意とお時間を考慮するともったいないようなお値段。

 能力担保研修のない週末を使って、実戦形式でみっちり試験対策をしていただきました。参考答案に選んでいただくまでになったときには、かなり自信がついたと思います。何を押さえてどこまで書けばいいのかが把握できたのがよかったです。
 あと、とにかく資料がすごい。この資料と基礎研修のテキストだけで戦ったと言っても過言ではありません。ありがとうございました。

 こちらもZoom開催で助かりました。

自主ゼミ

 村西ゼミ生の中で声をかけてもらって参加しました。
 ひとりで勉強していたら絶対に心が折れたはずなので、このゼミがなかったら、試験会場にすらたどり着けなかったかも。感謝です。

暗記とか過去問とか

 とにかく定義趣旨と規範(条文やその解釈(判例))をおぼえないとどうしようもないため、村西ゼミの資料等を元に、自分で単語帳を作って、ひたすらおぼえました。暗記が死ぬほど苦手なわたしにとって、これがいちばんつらかった……。単語帳片手に散歩しながらぶつぶつ暗誦したりとか、いろいろ工夫はしましたが、それでもすっごく楽し~いとはならなかったです。
 作った単語帳は、試験直前の最終チェックにもかなり役立ちました。
 おすすめ単語帳


 マイナーな試験なので、過去問の模範解答などが市販されていません(あっても法改正に対応してなかったりします)。村西ゼミの資料を元に、主に小問(民法・民訴)の過去問を解きました。テキストを読んで理解したつもりになっても、記憶や理解の足りないところや間違っているところは、結局、いろんな設例に当たって自分で考えないとわからないので。

感想あれこれ

 まずは、無事に一回で受かってホッとしました。大変でした。
 弁理士試験も大変でしたが、当時と比べて仕事の量は格段に増えているので、これをこなしながらの今回の挑戦は、子供が小さかった当時よりしんどかったかもしれません。

 この試験は、弁理士試験合格後の早いうちに受けるのがおすすめ(弁理士試験の記憶が残っているから)、とよく言われます。わたしの場合、弁理士登録から9年経っての挑戦だったため、遅いと言えば遅いかもしれませんが、学び直しと新しい知識の習得が、いいタイミングでできたかなと思います。
 なんでさっさと受けなかったか。
 弁理士試験自体、幼児を育てつつ仕事をしつつの受験だったこともあり、その合格直後に、さらにもう1年、付記試験のために上記の時間と労力は割けませんでした。子供が高校生になって、なおかつ研修等をオンラインで受けられる今年が、わたしにとってはベストだったのです。昨年末に上司が背中を押してくれたのも大きかったと思います。

 いっそもうちょっとすごくがんばって、予備試験と司法試験に挑戦してみてもよかったかなーと考えなくもありません。でも、いい年ではありますし、あまり資格の勉強に時間をかけるよりは、これまでの知識と経験を生かして、弁理士の実務の方で貢献していきたいと思います。

 付記登録を受けなくても優秀な弁理士はたくさんいますが、この試験は、わたし自身をステップアップさせるのには役立ちました。訴訟のケースでなくても、日々の仕事で書く起案の質は上がったと思います(あくまで当人比)。それだけでも、わたしにとっては価値ある挑戦でした。

 ところで、この試験の受験者数は年々減っており、付記弁理士制度がいつまで続くか、ちょっと不安なところです。
 実際、今年の受験者は93人でした。能力担保研修の受講者はもう少し多かったと思いますが、100人そこそこのために、たくさんの講師の先生方のご協力を仰ぐ研修や、試験問題の作成・採点等の試験自体を運営するのは、果たしてペイするのか疑問です。
 そろそろ付記弁理士制度自体を見直そうという声が上がっても不思議はありません。挑戦したい先生方はお早めに。