安全運転ができなくなるとき

細胞の培養は、車の運転に似ている。

注意力が必要で、でも緊張しすぎてはダメで、長く作業していると、手と足だけが惰性で動き、ふいに意識が飛んだりする。

細胞の培養は、もちろん、とてもクリーンなところでやる。
細胞が育ちやすい環境は、雑菌・カビにとってもよろこばしい環境だから、こまったちゃんが混じらないように、細心の注意を払って、「無菌操作」というのを行う。
(こまったちゃんが混じることをcontamination、略してコンタミという)

作業は、クリーンベンチと言って、こんなところの中でやる。


ガラス戸の下から手を突っ込んで、クリーンな環境を保つわけだ。

細胞の培地(液体)はガラスびんに入っている。
このびんの開閉にも、えらく神経を使う。

ふたを開けるときは、まずガスバーナーでふたをあぶり、ふたを開けたら、今度はびんの口をさらにあぶり、またふたをあぶって、軽く口にかぶせておく。
この口のところが、いちばんコンタミしやすいからだ。

細胞の培地をかえたり、あたらしく培地をつくったり、と、延々、無菌操作を続けていると、だんだん意識がモーローとしてくる。

びんの口をあぶる操作などは、あまりによくやるから、ほとんど無意識に手が動く。
ガスバーナーのスイッチは足で操作するが、単調な"ガチャン、ガチャン"という点火の音を聞いていると、ますますぼーっとなる。

さあ! ここだ。

A細胞用の培地をB細胞に与えてしまったり、思わず滅菌操作がいいかげんになってしまったりするのは、まさに、この瞬間である。

注意1秒、ケガ一生。
培地がちょっとくらい違っても、細胞はけっこう育ってくれる。
しかし、コンタミはおそろしい。

培地を吸い上げようとしたピペットの先が、
"カツン"とびんの口にさわったことを見逃して、(あるいは、まあいいや、と無視して)汚れたピペットで培地を吸ったがために、次の日、真っ白に雑菌のふえたシャーレとびんを見るなんざ、もっともおそろしい。

慣れたときの油断・疲れ・ねむけが大敵なのは、運転といっしょだ、と思うゆえんである。

・・・実はみんな「俺はけっこう無菌操作はうまい」と心の中で思っているのも、運転といっしょかもしれない。

というわけで、

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本日の細胞

チョーさんはそこそこ生きている。
あと三日くらいすると、完全に薬剤が効いて、遺伝子の入ったチョーさんだけが生き残ってくれるはず。
がんばれ~。

先週の金曜から、新しい細胞を飼いはじめた。
COS-1細胞といって、サルの腎臓の細胞だ。
愛称は、コスりん。
じょうぶなやつらなので大丈夫だろう、と手を抜いてチョーさんとおなじ培地を与えたら、どんどん死んでしまった。
あわてて、最適な培地にかえる。
ごめんねコスりん、元気に育ってね。


本日のSSKさん

よく素性のわからない人と、とても親しげに話をした後で、
「あの人誰だっけ」と聞きに・・・
もうじき36回目のバースデーだというのに。

ひどい風邪声。
おだいじに。