日常が非日常になってそれがまた日常になっていく

1月から、あれよあれよという間に、世界は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)一色に染まってしまった。
正確な情報を理解し、世の中の動きに合わせて仕事や家庭の体勢を整えていくのにせいいっぱいの日々だった。
まだ落ち着いたわけでは全然ないが、なかなか希有な体験をしていることでもあり、このあたりで、これまでの感想を記録しておきたい。

あくまで個人的な感想にすぎない。新型コロナウイルス感染症に関する正確な情報については、厚生労働省のウェブサイト等を参照されたい。

何よりもまず、「個人的/社会的にどの程度のリソースを費やして早期探知/隔離/封じ込めに取り組むべき病原体なのか」がわかりづらかったし、まだよくわからない。新しい病原体なのだから当然ではある。
この点については、私も混乱していたし、たぶん日本国内レベルでも混乱していたし、もっといえば世界レベルでも混乱したまま、今日まで来てしまっているんじゃないだろうか。

たとえば中国は最初から徹底した封じ込め対策をとっていたのに対し、日本政府は中国の状況(軽症者や無症候性感染者の多さ等)が判明するとすぐに、徹底した封じ込めはしないと判断していたように見えた。
1月の武漢からのチャーター機帰国者に対して、他国とは異なって厳しい隔離や検疫が課されなかったり*1、クルーズ船(DP号)下船者に対しても厳しい隔離がされなかった*2ことからも、日本政府は徹底した封じ込めは目指さない方針でいくのかな、と私は思っていたのである。

徹底した封じ込めは目指さない方針で行くなら、それはそれで一定の合理性があるだろう(医療機関のリソースも確保できるし)とは思っていたが、一方で政府からは水際対策の重要性がアナウンスされたりもしていたので*3、いまひとつ感染対策のレベル感がわかりづらかった。

ここで個人的に頼りになったのが新型コロナウイルス感染症対策専門家会議である。議事録こそほとんど作成・公表されていないようだが*4、会議が政府に助言した内容をまとめた見解等は公表されている*5
公表された見解*6や、構成員の専門家の先生のインタビュー等*7は、私にとってはおおむね納得のいくものだった*8
徹底した封じ込めは目指さず、感染拡大のスピードを抑制することで、重症者の発生と死亡数を減らす方針だと理解できたし、市民生活や経済活動を過度に制約することなく、医療機関のリソースも確保しつつ、マイルドな感染対策を行っていけそうだと評価もしていたのである。

しかし、2月26日には安倍首相によるイベント自粛要請、2月27日には安倍首相による小中高校の一斉休校要請、さらに3月5日には中国と韓国からの入国制限、と、矢継ぎ早に政府からラディカルな方針が打ち出された。
これらは私たちの生活に大きな制約を課し、経済活動にも多大な影響を与えるものである。ここからいきなり、私の日常は非日常に切り替わってしまった。

そして今、子供たちの休校開始から一週間が経ち、非日常も既に日常になりつつあるが、うっすらとした重しが気持ちにのしかかったままの状態に慣れてしまうのは怖い。東京ですらこうなのだから、さらに厳しい制限・自粛状態にある北海道ではどれほどだろうか。
ことは日本国内にとどまらない。韓国やイタリアを始めとして、厳しい制約が市民に課されている国は増えているし、国際的な人の移動は激減している。
世界中の多くの人たちの活動を制限し、経済活動を停滞させているこの状態がいつまで続くのか。どの指標がどうなれば、終息したといえるのか*9。先がなかなか見えない。

……と、このあたりまでの内容を、この一週間くらい書いたり消したりしていたのだが、ちょっと前向きになれそうなニュースがある。
昨日(2020年3月9日)付けで、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議から、「新型コロナウイルス感染症対策の見解」 が公表されたのである*10
ここでは、現在のところ日本では爆発的な感染拡大には進んでいない様子であること、北海道での対策の評価が3月19日ごろをめどに公表される予定であること、そして今後の長期的な見通しなどが示されている。

特に、今後の長期的な見通しのところでは、地域ごとに流行状況を判断し、それに応じた対策を検討する方針が紹介されていて、WHOや日本の厚生労働省のクラスター対策班が既にこの方針に基づく作業を開始していることが読み取れる。
これらの方針が固まってくれば、市民の生活が制約されるべき地域や期間の見通しが立てやすくなる、と期待していいだろうか。
また、いずれは世界各国で協調して、ある程度統一した基準で、COVID-19に立ち向かっていくことができるようになる、と期待していいだろうか。

この問題に取り組み続けているすべての人たちに感謝しつつ、少しだけ明るい気持ちで、今日も家族のごはんを作ろうと思う。

*1:米韓は無症状の帰国者を2週間隔離 日本政府は帰宅を許可…リスクはないのか? - FNN.jpプライムオンライン

*2:下船した乗客らの隔離必要なし 集団感染のクルーズ船巡り厚労相(共同通信) - Yahoo!ニュース

*3:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kinkyutaiou_corona.pdf

*4:(社説)新型コロナ対応 検証に堪える記録残せ:朝日新聞デジタル

*5:新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等(新型コロナウイルス感染症)|厚生労働省

*6:新型コロナウイルス感染症(新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解)|厚生労働省

*7:専門家会議メンバーが明かす、新型コロナの「正体」と今後のシナリオ - Yahoo!ニュース

*8:少なくとも2月24日ごろまでは。「10代、20代、30代の皆さん」に呼びかけた3月2日の見解はあまりいただけない。実際、10代を入れるのはどうかとの意見もあったようだし(なぜ「若者」に注意喚起したんですか? 専門家会議の中の人に聞いてみた)(「10代」だけが半角になっているのも、このあたりの迷いの表れだったのかも……?)

*9:たとえば、既にたくさんの人がSARS-CoV-2の抗体を持っていることが判明したりすれば、もう厳しすぎる対策はとらなくていいかな、と思えるかもしれないが、健康な人に対して検査をすべきかどうか等も含めて、ハードルはまだ高いだろう。

*10:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000606000.pdf