ポスドク問題その3~今がチャンス~

博士の就職先として、アカデミアのほかには企業があるが、企業は博士を採用したがらないというのが定説である。

果たして、本当に企業には博士を採用する気がないのだろうか?


私を採用した、うちの会社の偉い人たちに聞いてみたところ、「博士だから、あるいはポスドクだから採る、採らない、という判断はしない。判断基準は、うちの会社で仕事ができそうかどうかだけだ」ということだそうだ。

「今どき、博士を敬遠する会社なんてあるの?」と上司のひとりは言った。国際的には、博士号をもたない研究者はディスカッションの相手にすらしてもらえない。その認識は企業の中でも広まっている。博士を敬遠するような企業は、所詮その程度の経営職しかいない、ということなんだろう。

また、論文博士が廃止される方向で進んでいるため、企業は自前で博士を養成することができなくなる。できあいの博士を買う企業は増えるだろう。現に、中途採用で博士を募集している企業はけっこうある。待遇も、詳しくは言えないが、私は優遇してもらっている。

それに、ろくに自分で研究を進めたこともない修士よりも、博士のほうが「使える」のは自明の理。現場ではみんな、わかってるけど言わないだけである(大きな声ではね)。

「応募さえしてくれれば、そこで判断する」とのことだが、応募してくる博士の絶対数がそもそも少ないらしい。ということは、問題は博士たちのほうにあるんじゃないか? やってみもしないで、ビビッて文句ばかり言ってない?


私がそうであったように、「アカデミア>企業」という格付けをしている博士たちは多い。そのような価値観から抜け出せない、アカデミアの研究リーダーたちにも責任の一端はあるだろう。

アカデミアでの研究と企業での研究は、ともすれば対立するものとしてとらえられる・・・「役に立つから偉い」「いや、役に立たないからこそ偉い」。しかし、どちらかが偉くてどちらかが偉くない、なんてことがあるだろうか? 役割が違うだけの話なのだ。


大学院の研究指導者たちは、「研究というお仕事」の多様性をもっと知るべきだし、教えるべきだと思う。大学院生やポスドクたちは、自分が心地よく働ける場所について、もっとアンテナを張るべきだ。

「アカデミアには職がない」「自分が職に就けないのは不当である」と思うのなら、違う場所に職を求めればよい。優秀な博士たちがどんどんポスドクを辞めれば、これまで偉そうにポスドクを使い捨てていた人たちも少しは考えるだろう。


博士号に対する企業のリスペクトが低い、給料が少ない、という文句もあろうが、そもそも企業に勤めようという博士が少なかったからである。優秀な博士の取り合いになれば、企業だってそれなりの対価を支払うはずだ。

今、アカデミアのポストの値が上がっているのは、ポストの数に比して応募者が多いからである。学士・修士の質が下がっている今、企業における博士の需要は高まっている。遠からず、企業の研究職にも、目ざとい新卒博士やポスドクがどんどん集まってくるだろう。多くの博士たちの目が企業に向いていない今こそ、やりがいのある新しい職を手に入れるチャンスだ。


「博士ユニオン」をつくらなくても、博士たちひとりひとりが発想を転換し、行動していけば、必ず現状を変えていくことができると私は思う。

アカデミアでの研究の価値を知っている企業研究者が増えれば、企業の基礎研究力を高めることもできる。研究の基礎体力を身につけた企業は、外国との競争力を手に入れるだろう。私は、そのようにして自分のいる場所と自分の価値を高めていきたいと考えている。(だから、優秀な皆さん、こっちへ来て~♪)


甘えず、腐らず、元気に頑張りましょうぜ、同志たちよ。