研究者支援について、コメントへのお答え

前回のエントリに対して、トラックバック、コメント、そしてメールをたくさんいただきました。

みなさま、ほんとうにありがとうございます。

つたないエントリですが、議論のきっかけになったことを嬉しく思っております。


コメントに対してのレスポンスで、長くなりそうなものがいくつかありましたので、以下に取り上げます。


Reiさん

こんにちは。こういう女性支援の政策は、男性からすると逆差別のように感じられるおそれのあるものだとは思います。能力が低いのに女性だからといって採用された、等そういうことですね。しかし現在のように母数があまりにも小さい現状は、それこそスーパーウーマンしか男性とともに働いてはいけない、という考え方を助長するものだと思いませんか。普通に研究して家庭も大事にしたい女性がより採用されやすくなる為には、絶対数をまず増やす事が有効な手だてだと思います。ですから、私はこうした制度は、新聞の記事や文部省の説明では(???)と思いますが、概ね歓迎します。

http://d.hatena.ne.jp/pollyanna/20081006#c1223507514


コメントありがとうございます。


女性研究者の絶対数を増やすことは、もちろん重要なことだと思います。

ただ、今回の方法が、絶対数を増やすことにおいて、どれほど有効なのか、いまいち疑問なのです。


およそ18億円を投じる今回の方法でも、採用される女性は全国で100人にしか過ぎません。この方法を継続して、年々100人の採用を積み上げていくかどうかの保証もありません。

平成19年現在、82 万6600 人いる研究者の中で、女性研究者の数は10 万8500 人。ここに100人プラスすることにどれほど意義があるのか、そもそもそこが疑問でもあります。

ちなみに平成18年の女性研究者数は10万2900人。今回のような策がなくても、年間で5600人増えているのですよね。

http://www.stat.go.jp/data/kagaku/pamphlet/s-04.htm


その割にぱっと見の額が大きいので、Reiさんのおっしゃるような「逆差別」「女ばかり優遇される」という印象を、実際以上に与え広めるという意味で、やはりあまり良い方法のようには思えないのです。

ほんとうは、たった100人なのになあ。


もし、この制度が「普通に研究して家庭も大事にしたい女性」を支援することを目的とするのならば、なおのこと妙な制度です。

というのも、こうやって採用された女性が、果たしてその後、「普通に研究して家庭も大事にしたい女性」を採用してくれるのかどうか、疑問なのです。

コメント欄でSさんがおっしゃっていたように、たとえ、「普通に研究して家庭も大事にしたい女性」がこのような補助金で採用されたとしても、その短い雇用期間に結婚して、出産して、次のキャリアアップにつなげる研究をしてというのは、実際にはとても難しいことだろうと想像します。

おそらくは、採用された「恩」に報いるために、家庭は二の次の、旧来の男性研究者のような働き方を選択するのではないでしょうか。


そして結局、旧来の男性のような価値観と働き方の女性研究者を、ちょっとばかり増やすだけのような気がしてならないのです。

そのことを非難しているのではありません。研究のみに打ち込みたいという女性研究者はいて当然ですし、心の底から応援します。

ただ、結果として、多様な女性研究者のライフスタイルの選択肢が狭められるようになっていいのかな、と思うのです。

もちろん、私はこのような心配が杞憂であることを望んでいますし、今回の施策で採用される女性研究者の方々を応援する気持ちについては、前回のエントリに書いたとおりです。


でもやはり、時間がかかるようであっても、「母数があまりにも小さい現状」のそもそもの原因を解決していくことが大事であり、有効であるだろうと私は考えます。


それこそスーパーウーマンしか男性とともに働いてはいけない、という考え方を助長するものだと思いませんか。


うーむむー。私はそうは思わないのです。

将来にわたって女性が正当に評価され、働きやすい環境をつくっていくためには、能力や業績で勝負すべきところは正当に勝負すべきです。

能力や業績が正当に評価されていないという事実があるならば、そのシステムをまず正さなくてはいけませんが、それは、補助金くらいで解決することではないと思います。

ほんとうに現状を変えたいと研究者たちが望むのであれば、小手先の与えられた策を待つのではなく、現場から声を上げ、行動を起こしていく必要があるのではないでしょうか。


また、出産や育児でアウトプットが一時的に落ちるのは当然のことで、そこをないことにしようと評価をいじったり、無理にアウトプットを高めようと頑張りすぎるのはおかしい。

むしろ、「出産・育児でアウトプットが一時的に落ちること」を男女ともに共通認識として、助け合える環境でなければならないはずです。


民間では、たくさんの普通の女性が、がんばって「普通に」生活をしながら、きちんと仕事で結果を出してきました。そうして、出産育児で一時的にアウトプットが落ちることはあっても、あとできちんと取り返せることについて、周囲に理解させてきました。そうやって多くの先輩女性たちが先例をつくり、また現在でもつくりつつあるのだと思います。


ただし、民間の女性たちが、アファーマティブアクションがなくても、スーパーウーマンでなくても、仕事と家庭を息長く両立していけているのは、雇用が安定している場合に限られます。

雇用が安定していなければ、やはり子どもを産み育てることは難しいのが現実です。


女性研究者のみならず、アカデミアの研究者が家庭、特に子どもをもつことが難しいのは、つまるところ、雇用の安定性にかかっていると思います。

雇用が安定しない→家庭と両立できる自信がない→研究者なんかやってられない

というのが、女性研究者が離れていく図式なのではないでしょうか。

男女問わず、ポスドクの年齢制限をなくす、一回の雇用期間を長くする、といった対策が有効かもしれません。

そのためには、短期の研究費だけではなく、10年単位の長期にわたって支給される研究費をもっと増やす必要があると思いますが、それは、女性研究者問題だけではなく、研究者共通のさまざまな問題を解決する役に立つような気がします。


今回の施策にいまひとつ好感がもてないのは、本当に必要かつ有効な長期の支出を避け、目先の数値のみをなんとかしようという姿勢に見えてしかたないからです。

保育園も、いったんつくれば、それを運営していくためには継続的な支出が必要です。しかし、今回のような補助金であれば、3年で区切ることができるし、また制度そのものを中止することも容易です。

このような短期的で場当たり的な策を積み重ねていくことが、日本の研究界をおかしくしている元凶であると、私には思えてなりません。


holyさん

初めてコメントさせていただきます。

私は現在博士課程の学生でして、お世話になっている学会(男性:女性、約7:3)でお会いする女性研究者の多くが、「妊娠すると、なぜか学会賞がもらえるんだよね」と口にされています。研究者としての立場ゆえの大変さもあるのでしょうが、それではなく、「妊娠すると、学会賞がもらえる」という不思議?な自慢話をされています。そういう空気がある、今お世話になっている学会がとても大好きで、これからも学会に関わり続けるであろう事が予想される身としては、とても安心感を覚えます。

同じお金であれば、託児所・保育園の整備などの方面に使うなど、子どもを生むことや育てることに負い目にならないようなシステムを作ってほしいと思いますし、それで研究機関や大学全体がこういう空気になれば、多少男性比率が多くても、研究が得意な女性は残りやすくなると思うのですが…

私自身は結婚も出産もまだ知らないので、生意気を言っていたら申し訳ございません。

http://d.hatena.ne.jp/pollyanna/20081006#c1223477326


ありがとうございます。

頑張っている女性が評価されることは嬉しいですし、勇気が出ますよね。

いい環境で研究なさることができていることを、holyさんのために心からお喜びします。

おっしゃるとおり、環境づくり、雰囲気づくりは、ほんとうに大切だと思います。


余談ですが、私は「女性研究者のための賞」のようなものも、いずれはなくなることが理想だと思っています。

猿橋賞をはじめとする、女性研究者のための賞は、真に素晴らしい内容の研究に与えられていると私は確信しています。

だからこそ、女性「でも」こんなに立派な研究ができるんだ、とアピールする必要のない時代が早く来ることを願うのです。


現在のような状態では、家庭と研究を両立して優れた業績を挙げている研究者は、そのすばらしさをいくら喧伝しても足りないくらいだと思います。私も、尊敬する女性の先輩研究者の方々が受賞されるたびに、よかった、うれしい、と思うとともに、とても励みになりました。厳しい環境でがんばる後進の女性たちに、どれほど励みになることでしょう。

しかし、多くの女性研究者が能力や業績を正当に評価してほしいと要望しながら、いっぽうで「女性である」「子どもがいる」という、研究とは関係のない付加価値でも評価される、ということは、どこかでねじれを生むような気がしてなりません。

このようなねじれが、ゆくゆくは解消されることを、私は望みます。


育児と研究を両立しなければ「女性研究者」としての栄誉を得られないから、とにかく子どもを産まなくちゃ、みたいな雰囲気になったらいやだなあ、と思うのです。


sauryさん

はじめて投稿します。

私は企業研究者で、妻はポスドクです。

家事育児分担してやってます。

しかし、研究者ってのは、特殊な職業ですから。

全世界との競争ですし。保証もない。

ライフワークバランスをとりたいのならば、同じ理系でも、もっと安定した職業(薬剤師とか弁理士とか大企業のRDとか)に行ったほうが良いとおもいますよ。

ポスドクやって、論文出して、のし上がって行く女性は、この持参金制度でもなんでも使えるものは全て使って、全てを踏み台にして上がって行く力が有る人だとおもいます。それは「スーパー」ではなくて、(男女問わず)研究者なら普通のことでは?? アカデミック研究者だけが職業じゃないんです。研究者として脂がのって一番論文を出せる20代後半~30代(子育ての時期と重複するのは重々承知です)を、『たった3年の支援じゃ。。』といっているようでは、ちょっと甘いと思いました。旦那でも親でも何でも使える物は全て使って、世に還元できる成果を出して、やっと血税で研究出来る資格があるとおもいます。

別に『女性は働くな!』といってるわけではないですよ。研究者ならば、そのくらいの覚悟は、男女問わず必要だ、そういう特殊な職業だ、ということです。その覚悟がないなら、もっと福利厚生、お給料もやりがいもある仕事にうつればいいだけです。

http://d.hatena.ne.jp/pollyanna/20081006#c1224234557


「『たった3年の支援じゃ。。』といっているようでは、ちょっと甘いと思いました」・・・ええと、これはどなたにあててのメッセージでしょうか。

私は、女性をターゲットとしたこういう金銭的支援がもっと必要だということは書いていません。


ところで、覚悟があることは、研究者を続けるためには必要だと思いますが、覚悟さえあれば続けられるというものでもないでしょう。

まず評価されるべきなのは、研究上の能力と業績でしょう?

でも、それ以前に「私は私生活は犠牲にできます」と言えることが、まず重視されているような雰囲気が、あるところにはある。

そのような価値観を、少しずつでも崩していけることが重要なのではないでしょうか。


なにも研究者の世界だけが特殊ではなく、ほかの業界でも同じだと思います。

ほかの業界がいま、ワークライフバランスを重視し出しているのは、その「覚悟」偏重の弊害に気づき出しているからではないでしょうか。


あるポスドクさん

男性のポスドクです。30代後半で家族持ちです。私の給料が我が家の収入の全てです。

そんな私からみるとこの制度は少し悲しいです。もしも、この制度のせいで共働きの女性が就職して、私のような扶養家族持ちの男性が切り捨てられていたら本末転倒だと思います。女性の中には家庭に入り家事と子育に専念したい人もいます。少くとも私の妻はそうです。そのような女性の幸福は考慮にはいっているのでしょうか?まさか女性全員社会で働かなければならないと思っているのでしょうか?そんな押し付けの幸福は迷惑です。この制度をみているとそんな言語外の圧力すら感じます。

同じ業績なら女性と良く言います。独身同士など家庭環境が同じであれば理解できます。でもできれば同じ業績なら扶養家族持ちでお願いしたいです。男性研究者の後ろには妻や子供がいるんです。共稼ぎの女性を優遇して家族もち男性を冷遇して良いとは思いません。とうぜん、扶養家族持ちの女性でしたら、優遇もやむなしと思いますが、私の知っている限りでそのような女性研究者はみたことありません。

http://d.hatena.ne.jp/pollyanna/20081006/p1#c1224237021


なるほど、そういう考え方もあるのですね。

多様な研究者が抱える背景は、そのようにさまざまであるからこそ、特定のハンデ(女性であること、育児や介護をしていること、家族を扶養していることなど)について支援を偏らせることは問題なのだと思います。


研究者問題を離れて、働く女性の支援・応援は一般に、専業主婦の女性に肩身の狭い思いをさせがちです。

女性同士が反目しあうようになることを私は望みません。

すぐに結論が出るようなことではないからこそ、早急に極端な対応をすることは避けなければならないと思っています。