せんせいのおしごと

某模擬試験の作題会議に出席。
あちこち詰めが甘い。まだまだ修行が足りないようだ。

この模試はいいけれど、もう少し簡単なものになると、ほんとうにネタに困る。
教科書に準拠して、でもオリジナルな題材、というのが、実に実にむずかしい。
教える内容が理不尽に減らされているのが痛い。
だいたい、性ホルモンを教えないでホルモンを教える、というのはどういうことか。


指導要領氏は
『恒常性維持の原理を代表的な例に基づいて理解させる程度にとどめ、羅列的な扱いはしないこと』
と注意している。
具体的に言うと、体温や血糖量をどのように維持しているかということだけ教えて、たくさんのホルモンによって複雑に制御されている性のしくみは教えちゃいかん、ということだ。

たしかに、なんたらホルモン・かんたらホルモンを、サルみたいにひたすらおぼえさせるっていうのは、どうかと思うけれど、女性の性周期なんて、おもしろいと思うんだけどなあ。

もちろん、ふだんの授業で扱う分にはかまわないのだろうが、テストには出しちゃいけない。
出すとしたら、ある程度の情報を与えた上で問わなくてはいけないので、けっこうテクニックがいる。
テストを作る方は、どんどんネタが尽きていって、毎回頭を抱えることになる。

そもそも、だ。

こんなに日々、生物学は進歩しているのに、この十年一日のごとき教科書はなんなのだ。

ホルモンは、ある細胞から分泌されて、別の細胞を刺激する「情報伝達物質」だ。
当然、刺激される細胞には、ホルモンを受け取る「受容体」がある。
ホルモンにはいろんな種類があるから、それに対応して、受容体にもいろんな種類がある。
ホルモンを考えるなら、受容体という概念は欠かせないことくらい、すぐわかる。

日本人の糖尿病のほとんどは、血糖量を下げるホルモン・インスリンの受容体がイカレてて、インスリンが働くことができずに、血糖値が上がってしまうというもの。
こんなに大切な受容体なのに、高校生物で「受容体」という言葉を使うことは禁じられている。

「受容体」の概念は、実は入試には平気で出る。教えたい。でも「受容体」という言葉は使っちゃいけない。
苦肉の策として、私たちが使うテは、
「ホルモンの作用する器官が、ホルモンを感じ取る能力」という持って回った言い方だ。
ああ、ばかばかしい。

このポストゲノム時代に、ゲノムのゲの字もないし。
生物学の躍動を伝えない、死んだような教科書じゃ、ちっともおもしろくない。
最新の生物学は、小論文の講義で教えられていたりする。
いいのか?

一度、まったく新しい教科書を編み直したらどうだろう。
古いまんまの概念で、内容をどんどん減らすのは、もうやめようじゃないか。
非論理的かつ思考力ゼロの子どもを量産するのは、もうやめようじゃないか。