Webとのつきあい方

 少し前に、webサービス会社「はてな」の取締役である梅田望夫氏が、twitterで「日本のwebは残念」と発言して話題になった。

 最初にこの発言を見たときには、「はてな」のサービスを楽しく便利に使っている顧客の一人として、裏切られたような気持ちになってがっかりした。梅田さんの「ウェブ進化論」などの著作に胸を躍らせたファンとしても、それこそ残念、だった。

 しかし、どこかで「たしかに、期待したほどwebはいいものでもないかもな」と思うときもあったので、各種webサービスに対する私のスタンスを考え直してみた。

 あくまで私個人の感じ方なので、別の人が同じサービスに対してまったく違うことを感じているだろうことは言うまでもない。

情報収集ツールとしてのwebサービス

 今、私が情報の収集に使っているサービスを挙げてみる。

1.Google検索

2.特許電子図書館

3.各新聞社の公式サイトや、Biotechnology Japanなどの情報サイト

4.はてなブックマーク

5.Twitter

 1は、言わずと知れた検索サイトの大御所であり、この便利さははかりしれない。情報を集めたり、確認したりするほかに、英語を書くときに自分の用法が正しいかどうか調べるのにも使っている。

 2は、特許文献や出願の情報等を調べるのに、仕事上必須。

 3は、家ではなかなかテレビのニュースを見られないので、ニュースを知るために(ちなみに紙の新聞は日経を取っている)。また、専門分野の新鮮で正確な情報を得るために。

 4は、気になる記事を自分用にクリップしておいたり、それをほかのユーザとシェアしたりするサービス(ソーシャルブックマーク)。仕事や生活上で有益な情報をクリップしてくれるユーザを「お気に入り」に登録しておくことで、彼らが見つけたホットなニュースを知ることができる。

 5は、オバマ大統領が選挙戦で利用したことで一躍有名になったミニブログサービスで、最近は日本の新聞社や一部の政治家たちも、これを使うようになった。

 ちなみに1~5の順位は、仕事にダイレクトに役立っている順につけた。趣味として楽しいと感じる順番は、だいたいその逆になる。

 4のはてなブックマークは、幅広い情報を手に入れるには、非常に便利なツールであると思うし、コメントを介したユーザどうしのコミュニケーションがとても楽しい。私にとっては、とても大切なサービスだ。

 ただ、仕事に直接役立つか、そこから得られた情報でメシが食えるか、となると、残念ながらそこまではいかない。

 私の日常の仕事は、発明を理解し、ビジネスや産業に役立つ特許にすることだ。はてなブックマークを介して幅広く集めた情報は、科学や技術、知財について、自分のものの見方が偏らないように是正したり、新鮮なモチベーションを保っておくことには役立つ。しかし、いくら漫然と情報を集めたところで、明細書が書けるようにはならない。

 5のtwitterは、新しいニュースをいち早く知ったり、仕事や生活上でつながりのある(あるいはつながりたい)人と交流するのには、とても便利なツールだ。人によってはこれでメシが食えるだろう。しかし、はてなブックマークと同じように、やはりtwitterで集めた情報では明細書は書けない。

 インターネットに溢れる情報は、どうしても玉石混淆だし、断片的なものになりがちだ。信頼できる情報とできない情報を選り分ける手間と時間は、非常に無駄なものに感じられ、ストレスになる。また、知識や理解の程度がばらばらな人がそれぞれのスタート地点から論じたものを寄せ集めるより、専門家に聞くか、専門家が書いた書籍を一冊、通読した方が私には良いと感じられる。

 したがって、仕事上で実用的な情報を得る手段としては、リアルの人間関係や書籍にくらべてwebの重要性はやや低い。「コンテンツが薄い・足りない」という印象が強いからだ。

 今後、リアルの世界のさまざまな分野で業績を挙げている人たちが、自分のもっているノウハウや哲学をどんどん公開し、それらの情報に少ない手間でアクセスできるようになれば、この状況は変わっていくのではないかと期待もしている。

 たとえば日本の研究界を見ても、リアルに価値や利益を生み出している人たちが、もっともっとwebに参入する余地があると私には感じられる。セキュリティの問題も含めて、情報を公開することにはリスクがあることは確かだ。リスクをできるだけ低くし、リスクに対する不安を上回る「いいこと」が、webの未来にはあるはずだ、と思って行動する人が増えれば、きっと未来はそのように変わるだろう。

 当たり前のことだが、何かを生み出すのは、情報そのものではなく、それを吸収した人間だ。

 何かを生み出せるか否かは、その「人」にかかっている。どのような情報をどのような手段で手に入れ、それをどのように利用するかも、「人」が決める。

 少なくとも私においては、私という「人」を形成するさまざまな要素のうち、webやweb上の人間関係から得られたものがある程度を占めつつあるのは確かだ。自分の実生活とバランスが取れているかぎり、それは非常に有益であると思っている。

情報発信ツールとしてのwebサービス

情報収集にwebサービスを使っていると、自分自身も何かを発信した方が、より世界が広がることが実感できる。

 情報や意見を提示する→それを見た人がフィードバックしてくれる→それまで知らなかった人とのつながりができる

 興味の方向が似ている人は、私が興味をもっている分野の情報について、あらかじめ「石」をふるいおとした「玉」の情報ばかりを提示してくれる。また、気が合うのでコミュニケーションも楽しい。

 しかし、コミュニケーションそのものの楽しさにおぼれて、先に述べたような「実生活とのバランス」を見失う危険性もある。

 また、「玉」の情報を見つけてくることだけで評価され続けると、その情報の価値が自分に化体しているような錯覚に陥りかねない。その情報を創作したわけでもなく、評論としての体すらなしていないものなのに、だ。

 これらの問題については、それこそ自力で模索していくしかなく、「こうしたらいい」という明確な結論は出ていない。

 4月頃に、twitter上で内田麻理香さん有村悠さんyucoさん楠正憲さんたちと、関連することで議論したことがある。物書きやwebサービスのプロの皆さんが期せずして反応してくださり、私には大変有意義だったので、以下にご紹介させていただく(事後承諾で恐縮です。問題があればご連絡ください)。

pollyanna_y@kasoken この時間だし飲んでるし、本音を言うと、まともな発表の場がほしくてしかたないのに、まだそこまでたどりつけていなくて、ブログやはてなで手軽に反応が得られる快感に足を取られそうで、かなり危機感をおぼえている、という現状です。すき間時間で得られるパフォーマンスが高過ぎるlink
kasoken@pollyanna_y んー、悩ましいですね。個人的に感じているのは、文章での収入(ぶっちゃけ原稿料)と、はてぶの数の相関はないのでは、ってところです(反例は内田樹さん?)。ここに理由がありそうな気がしてならないのです。link
pollyanna_y@kasoken あー。やっぱそうなんだ。内田樹センセはまた特殊な気はするけど(いろいろあるけど私は彼は好き)、それを聞くとますます危機感。自分に対して。link
y_arim@pollyanna_y ……脇から申し訳ないですがドキリとしました<ブログやはてなで手軽に反応が得られる快感に足を取られそうで、かなり危機感をおぼえている [世界警備員]link
pollyanna_y@y_arim 有村さんもそうですか。いやもしかしたらと思っていたのですが。ブログやはてなのアクティビティは、発信にかける手間の少なさに比べて、得られる反応(の当座の印象)がとても大きい気がしています。そこを見誤ることがとても怖い。link
y_arim@pollyanna_y そういう意味では一番危ないのははてブはてなスターなのかもしれません。いや、そんなところで見誤るのはさすがにアホなのかもしれませんけれども……ただ、どこかで発信をセーブする、本業に時間をかけるストイシズムは持っていたほうがいいのかもしれません。 [世界警備員]link
masanork@love_chocolate まあしかし、おカタいエントリでそれなりにアクセスがあると嬉しいですね。link
yucoはてダで書いている人はブログに対する労力に比して反応がとても大きいと思っているようだ。私みたいにレンタルサーバwordpressにするとそこまで反応ってないけどなぁlink
pollyanna_y@yuco 私はレンタルサーバWordpressに移行してから俄然平和になりました(笑) そこに落ち着いていればいいものを、ハイクとかに書いて自分でブックマークしたりするところに、我が身の業の深さを……。link
pollyanna_y@masanork こんばんは。よろしくお願いします。私の個人的な問題と一般論をごっちゃにするのは避けたいのですが、私自身はできるだけ多くの人にアピールする仕事をしたいと思っていて、その指標としてはてぶ等を使うことを、というか使う自分の心構えをどうにかせねばと思っている次第です。link
kasoken@pollyanna_y 樹センセは、商業的なところと、ブログでうまーーく使い分けているような気がします。ちなみに私もそのあたりの上手さも含めて好きです。link
kasoken西原理恵子の「才能なんてものはしょせん、収入ではかることができる程度のもの」ってのを私はかなり信用していて。身銭を切るだけのものを作れるか否か、って自問自答して七転八倒しているところです。スターもブックマークもリブログも身銭切らなでできるもん。link
pollyanna_y@kasoken おっしゃるとおり。で、こないだの話題に戻ると。一度まとめてみよう。あ、ちなみに日経BPの仕事は結局まだ手放してません。link
yuco@pollyanna_y とはいえ書いたものに対する反応は欲しいので、はてな的な評価が組み込まれているシステムに近づいちゃうのも人間かなって思います。私も反応がなさ過ぎて(コメント不可にしてたりするので)ブログ最近書かないし…link
kasoken@pollyanna_y 文章に対して対価を払ってくれるところ、ってのは精神的安定に繋がりますよね。そういう意味では大事大事!!link
yucoたぶんできた分からバラバラぐちゃぐちゃでもネットにあげていくのが正解なんだろうな。link
kasoken@yuco うん、私も最近はそう思っています。「バラバラぐちゃぐちゃ」でもいいのかな、と思ってブログにupしちゃっている。もっと断片的なのはtwitterにお任せ、ってところなのかな。link
pollyanna_y@kasoken @yuco もっと「バラバラぐちゃぐちゃ」を、自分の場所にガンガン出してく方が、こういうぐじぐじした煩悶はなくなるのかな。ちとやってみようかな。link
masanork@pollyanna_y なるほど。そこは同感ですね。ホッテントリ入りする切り方と、一般にアピールする切り方とは確かにギャップがある気がします。けれどついフィードバックがある方に振れてしまう。link
kasoken@pollyanna_y, @yuco 「バラバラぐちゃぐちゃ」があとで発想の核になる気がするんですよね。たった一個のエントリが仕事の依頼に繋がって、あ、これもアリなのかーと思ったり、とか。link

 こうしてみると、自分が達成したいことが明確になっている人たち(それをプロという)は、webサービスによって浮き彫りにされるかもしれない自分自身の弱点をうまく制御して、webのメリットを享受していることが分かる。(特に楠正憲さんはwebサービスのプロ中のプロでいらっしゃるので、こう申し上げることすら失礼にあたるかもしれないが)

 実際にwebを利用しながらおもしろいモノやコトをつくりだしている人が、ほかにもたくさんいるのに、「webは残念」と私が思うなら、それはwebではなく、webを使う私が「残念」なのだろう。

 私は何をしたいのか、何ができるのか。結局のところ、勝負は正味の私にかかっている。