無我夢中のうちに、新しい環境で暮らしている。
最近やっていること。
まず、ガ(メイガというちっちゃい灰色のガ。害虫)を大量にすりつぶす。
5グラムのガ、というのはおよそ500匹。
そいつらが溶液中に、均一につぶれている景色を想像していただきたい。
「わー、こしあんの羊羹みたい」
と口走ったら、ガが大嫌いな同室のSWおねえさまが悲鳴をあげた。
実は、このガには「ボルバキア」という共生細菌がいる。
ボルバキアは、いろんな昆虫に感染していて、宿主の昆虫の性と生殖をあやつってしまう、
実に妙な生きものなのだ。
こいつらは、昆虫の卵の細胞質を通じて、母から娘へと伝えられて増えていく。
なので、メスの昆虫がふえたほうが、ボルバキアにとっては都合がいい。
そこでボルバキアは、なんとメスの昆虫を増やしてしまうのである。
遺伝的にはオスの虫を、卵が産める機能的なメスにしてしまったり、幼虫のうちにオスの虫だけ殺してしまったり。
どういう仕組みでそんなことができるのかは、ちっともわかっていない。
それを知ろうとしているのが私の仕事であり、したがって、ボルバキアをもっているガを大量にすりつぶしているのだ。
これまで身につけてきた技術があまりにお粗末なのと、いろんな器具・機械の使い勝手が違うのとで、結局、初めから教わることになる。
SSK師匠は、学生実習をふたつ受け持っているようなもので、さぞや大変だろうと思われる。
・・・と、Mさんに話したら、「今のうちよ、特権よ」と励ましてくださった。
ま、半年後にやらなきゃいいのよね♪
それにしても、今までの研究室でやってこなかった技術がたくさんおぼえられてうれしい。
これまで身につけたことは、そのうち役にたつときがくるだろう。
K先生は、かなり夜遅くまでお仕事をしていらっしゃる。
月曜日の夜11時半過ぎ、なにやら結果らしきものが出て喜んでいると、先生もいらして喜んでくださった。
ちなみに、ボルバキアは、コオロギにもハエにもいる。わりとメジャーな細菌である。