「幕末グルメ ブシメシ!」と酒井伴四郎

BSプレミアムでやっているドラマ「幕末グルメ ブシメシ!」を、子供と一緒に楽しみに見ています。
http://www.nhk.or.jp/pyd/bushimeshi/www.nhk.or.jp

参勤交代で単身、江戸にやってきた若き下級武士・酒田伴四郎と、彼を取り巻く人たちが繰り広げるてんやわんやの人情グルメドラマです。

原作は土山しげるさんの漫画「勤番グルメ ブシメシ!」となっていますが、ドラマオリジナルの設定も多く、原作のファンでもまた違った楽しみ方ができると思います。

キャストがまたすごい。

妻と娘が大好き、泣き虫で大食い、慣れない包丁を握って料理に腕を振るう伴四郎役に、瀬戸康史さん。
暴れん坊将軍よろしく、中間姿に身をやつして江戸の町をぶらぶら歩き回る、どうにもつかみどころのない殿様・松平茂照(十四代将軍・徳川家茂がモデル)役に、草刈正雄さん。
ずる賢いけど憎めない、伴四郎の叔父の宇治井平三役に、平田満さん。
ほかに、田中圭さん、徳井優さん、そしてなんと吉田沙保里さん等々、この役にはこの方しかないだろうという豪華キャストが揃っています。

そして、語りは声優の櫻井孝宏さんが担当。
七色の声を使い分けて、噂話に興じる江戸の町の人たちを演じているシーンが聞きどころです。

ちなみにこのドラマは、「外伝」として短編動画もいくつか制作されていて、ウェブ上でも公開されています。
http://www.nhk.or.jp/pyd/bushimeshi/html_bushimeshi_movie.html
この「外伝」の第一作は、ドラマの登場人物とスタッフたちによるマネキンチャレンジなのですが、ここでそれぞれの人物に櫻井さんが声をあてているのが、櫻井さんファンの私にはたまらない幸せ動画でした。

これまでドラマに出てきた幕末グルメは、そば、軍鶏鍋、茶粥、筍飯の蛤汁かけ、焼き鳥(?)、こんにゃく田楽、鶏唐揚げのカピタン漬け(南蛮漬け?)とどれもこれもおいしそうでした。
グレーテルのかまど」ではみごとなパティシエぶりを披露している瀬戸康史さん。このドラマの最初の方では、危なっかしい包丁さばきをリアルに演じていて、それがまたチャーミングでよかったです。

伴四郎はこれからどんな料理を作ってくれるのか。
無事に江戸勤番を終えて、愛する妻と娘のもとに戻れるのか。
そして、殿様の運命やいかに。

今後のお話も楽しみです。

さて実は、漫画「勤番グルメ ブシメシ!」にはさらに原作者がいて、それが酒井伴四郎。
紀州和歌山藩の下級武士で、江戸の暮らしを詳細に記録した「酒井伴四郎日記」を書いた人物です。

「酒井伴四郎日記」については、青木直巳さんの著書「幕末単身赴任 下級武士の食日記」で詳しく紹介されています。

幕末の江戸の食生活のみならず、下級武士たちの飾らない日常生活をうかがうことができて、とてもおもしろい本です。

この本によれば、酒井伴四郎はきわめてのんびりと働きつつ(たとえばある年の6月は6日しか働かず、7月の勤務日はゼロ、8月は13日間働いていますが、勤務時間は午前8時から正午ごろまで、といった具合)、観光や食べ歩き、自炊、宅飲みに興じていて、なんともうらやましい生活ぶり。

故郷においてきた娘を思って涙したりもする一方で、同居している青年武士が飯炊きに失敗したことや、いただきものの魚をわけてもらえなかったことを「甚だもっていかがなること」(!)などとグチグチ書き留めたりもしていて、ちっとも偉ぶる様子がありません。まるで落語に出てくる人物のようです。

こうして酒井伴四郎は江戸に集まった多種多様な食材や料理の文化を満喫していたようですが、ちらほら散見される病気の記述からは、やはり衛生状態はそれほどよくなかったのであろうことがうかがわれます。
叔父さんは痢病で下血に、酒井伴四郎は「筋玉の痛」(しかもかなりの激痛だった様子)に苦しんだりしているほか、食あたりもしばしば、そして皆よく風邪を引いています。
そういう様子を見ると、江戸時代はいいなあと手放しにうらやましがることはできないのですが、少しだけタイムトラベルできるのであれば、酒井伴四郎たちと江戸の町を食べ歩いてみたいと思います。