なつかしい小公女にひさしぶりに会った。
新潮文庫の訳は伊藤整。美しい完訳で再会したサアラ・クルウは,前に思っていたよりも強く,勝ち気であった。決してただのおとなしい天使なんかではない。
引き取ってやるのだから私の親切に礼を言いなさい,というミンチン女史に,サアラは礼など言わなかったばかりか,こう言ってのけた。
「先生はしんせつでなんかありません。しんせつでもありませんし,ここは家でもありません。」
7歳のサアラはこうも語る。
「ものごとってひとりでにおこるものね。わたしには,いいことばかりいろいろとおこったのよ。わたしが本や勉強が好きだということも,読んだものをおぼえるということも,ひとりでにそうなったのよ。(中略)きっとほんとうは,わたしはいじわるなのかもしれないわ。でも,ほしいと思うものはなんでももらえるし,だれもがしんせつにしてくれるのだから,いじわるなんか,してはいられなくなるでしょう。いったい」と言って,サアラはまじめな顔をし,
「わたしがいい子なのか,悪い子なのか,どうしてもはっきりしないの。きっとわたしはひどい子なのよ。だけど,一度もつらいめにあわなかったから,それがだれにもわからないのだわ。」
「ラヴィニアは一度もつらいめにあわないけど」とアーメンガアドが,ぼんやりと言った。「あの人あんなにいじがわるいわ。」
サアラはそのことを考えながら,いつものくせで鼻のあたまをこすっていた。そしてとうとう,こんなことを言った。
「そう,それはね,きっと----きっとラヴィニアがおとなになってきたからよ。」