マタニティ・ブルー

多くの産婦の例に漏れず、私も産後は涙もろくなった。

予想もしなかったことが涙腺を刺激し、ぼろぼろと涙がこぼれるのだ。


最初は、退院の日。子どもは退院診察のために連れて行かれ、久しぶりに一人になったときのことである。

荷物整理も着替えも化粧も終わり、時間ができたので、私はぶらぶらと外来まで散歩に出かけた。外来はいつものように混んでおり、幸せそうな、疲れたような妊婦さんの姿も見かけた。

そのとき、突然涙が溢れた。外来に通っていた妊婦さんは、ちょっと前までの私の姿。まだ、自分だけのペースで出歩いたり、お茶を飲んだり、悩んだり、喜んだりしていた頃の姿。

何か、決定的に、私の「娘時代」が終わったような感に打たれて、涙が出たのだ。


その次は、実家生活も軌道に乗り始めた頃。週末しか夫に会えないことが無性に淋しくて、夫の顔を見て泣いたことがあった。

娘は両親にとっては初孫である。この上ないほど可愛がってくれていて、とても嬉しいし、心強い。しかし、夫婦で娘をあやしながら「こんな顔をした」「あんなことをした」などと楽しそうに話している姿を見ると、なんとなく取り残された気がして、淋しくなるのだ。

私も「夫婦で」娘のちょっとしたしぐさや成長について話したい。でも、夫はいない。そんな甘えた理由で目が潤んでしまう。おそるべし、マタニティ・ブルー。