岩倉美津未(いわくら みつみ)。
官僚になりたくて、そしていずれは故郷の市長になりたいという夢を抱いて、東京の高校に進学してきた、石川県出身の15歳。
『スキップとローファー』は、この「みつみ」ちゃんと、彼女の友人たちが紡ぐ高校生活の物語です。
入学式に向かう途上、みつみちゃんが最初に出会うのが、同級生の志摩聡介(しま そうすけ)くんという男子。なので、これはガール・ミーツ・ボーイのお話かな? と思いきや、もちろんそれもあるけどそれだけじゃない。
高校生たちが出会い、お互いになんとなく好感や苦手感を抱きつつ、ちょっと仲良くなったり、すごーく仲良くなったり、仲良くならないまでも何かを一緒に成し遂げたりしていく過程を、とても丁寧に繊細に描いているところが素敵です。
友情が生まれかけるときと恋が生まれかけるとき、どちらにもときめきと不安があって、それらはとてもよく似ていると思うのです。
何歳になってもそういう局面が訪れることはあるでしょう。
でも、友情も恋も性別もすべて混沌とした原初の海のような人間関係が、ものすごい勢いでかき混ぜられるうちに、何かの形をなしていくような時期は、やはり青春時代ならではのことじゃないでしょうか。
などと、神話のようなたいそうなたとえを持ち出してしまいましたが、この『スキップとローファー』という作品の持ち味は、そのタイトルのとおりとても軽やかです。
軽やかなのに、一度読んでそれっきりにはしたくならず、何度も読み返してしまうのは、登場人物の誰もがかけがえのない固有の存在として心に残るから。
異能力者でもなんでもない高校生たちではあるけれど、「優等生」「イケメン」「ギャル」「隠キャ」といったキャラ紹介のテンプレには押し込められないし、押し込めたくもなりません。
あふれかえる大量の情報やコンテンツを手っ取り早く処理するために、決まりきった簡単なキーワードだけで、自分の外にある人や現象を雑に括ってしまうような、そんな時代の流れにささやかな抵抗をするように、この作品の登場人物たちの愛おしい個性は輝いているのです。
alu.jp現在、コミックス既刊は4巻まで。
みつみちゃんたちが出会ってからまだ半年しか経っていません。
まだまだ謎の多い志摩くんの過去、みつみちゃんや友人たちの恋の行方などなど、気になることがてんこ盛り。
この愛おしい作品を、これからもじっくりゆっくり楽しみに読んでいきたいと思います。