村中璃子さんのジョン・マドックス賞を契機に
海外の一流科学誌「ネイチャー」 HPVワクチンの安全性を検証してきた医師・ジャーナリストの村中璃子さんを表彰
ジョン・マドックス賞に日本人医師 村中璃子氏、子宮頸がんワクチン問題について発信 - 産経ニュース
医師であり、ジャーナリストでもある村中璃子さんが、ジョン・マドックス賞というイギリス科学界の権威ある賞を受賞されたとのことです。
村中さんは、子宮頸がん予防ワクチン(以下、HPVワクチンと呼びます)の安全性について、調査と発信を続けていらした方です。
私も、これからHPVワクチンを受ける年齢を迎える娘の母親として、村中さんのお仕事を拝読してきました。まずはおめでとうございます。
ジョン・マドックス賞受賞にあたっての村中さんのスピーチはこちら。
ジョン・マドックス賞受賞スピーチ全文「10万個の子宮」|村中璃子 Riko Muranaka|note
ここには、HPVワクチン接種後に生じた症状について、村中さんが、被害者団体などからさまざまな抗議や圧力を受けたことが述べられています。
その抗議や圧力がどのような理由に基づくものなのか(たとえば、村中さんの主張内容に対するものなのか、患者への取材方法の適切さに関するものなのか)は明らかにされていませんが、ご家族も含めて、日常生活を脅かされるような思いをされたようで、お気の毒に思います。
村中さんは、本来、HPVワクチン接種後に生じた症状に苦しむ患者さんたちと敵対すべき立場ではないはずです。できるだけ早期に、患者さんたちとの関係がよい方向へ向かうことを願います。
私が知りたいこと
さて、先のスピーチでは、主に、HPVワクチンの危険性をあおるような報道を続けてきた日本のメディアに対して、厳しい苦言が呈されています。
しかし、これから自分の娘にHPVワクチンを受けさせようとする私がもっとも知りたいことは、「メディアがどのように悪いのか」ではありません。
子供に、安全にHPVワクチンを接種させられるか。
万が一、接種後に重篤な症状が出たら、救済されるのか。
この二点です。これらについて、私なりに調べて、考えてきたことを、いい機会なのでまとめてみます。
子供に、安全にHPVワクチンを接種させられるか
HPVワクチンそのものは安全であると私は判断しています。
HPVワクチンの成分に起因して、(接種部位の腫れといったワクチン一般に見られる副反応を除く)固有の神経症状のような副反応が生じることは、まずないでしょう。
(厚生労働省の子宮頸がん予防ワクチンQ&Aには明確に安全であるとは書かれていませんが、厚生科学審議会での報告などを読んでそう判断しました)
しかし、痛みを感じやすい筋肉内注射であること、そして報道やインターネット上の議論などに触れた思春期の女の子が接種を受けることを考えると、いかに成分そのものの安全性が担保されたとしても、接種したということをきっかけに、心身の反応が生じてしまうのではないか、という点が心配です。
その点、実際に接種をしてくださる現場の医師の方々はどういうご認識なのだろう、と調べてみたところ、日本小児科学会が、平成26年10月に出した「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的接種勧奨再開の要望」が参考になりました。
ここでは、厚生科学審議会の副反応検討部会で提示された、接種にあたっての情報提供(注意事項)がまとめられ、それを支持するとされています。
たとえば、接種前に十分な説明をすること、過去の接種時の強い痛みや不安などの経験を確認できるようにすることなどです。
この認識を共有している小児科であれば、思春期の子供にも配慮した対応をしていただけるのではないかと期待ができます。
親としては、かかりつけ医に事前に相談をしておくのもいいのかもしれません。
一方で、日本産科婦人科学会の「子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)接種の勧奨再開を求める声明(平成27年8月)」を読むと、思春期特有の心身反応への配慮についての記載は読み取れず、やや不安です(この声明の対象が明確にされていないので、広く世論一般へ向けての声明と受け取りました)。
実際にHPVワクチンの接種を実施する各医療機関のホームページや、厚生労働省のホームページなどで、一般の親や子供向けに、安心できるような情報提供をしてもらえると嬉しいと思います。
家庭でも、親から子供に説明がしやすくなります。
おそらく今は、接種勧奨が中断されたままなので、各医療機関が積極的に接種を勧めるような情報発信ができない状況なのではないかと推察しています。
次項で述べるように救済制度も整ってきたことではあり、そろそろ接種勧奨を再開してもいいのではないでしょうか。
万が一、接種後に重篤な症状が出たら、救済されるのか
定期予防接種としての接種については、接種勧奨が中断された時期に受けても、予防接種法に基づく救済がされます(子宮頸がん予防ワクチンQ&A|厚生労働省)。
しかも、「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とする」とされています(HPVワクチン接種後に生じた症状に対する当面の対応 - 厚生労働省)。
また、自治体によっては、独自に救済の決定をしたケースもありました。
神戸新聞NEXT|医療ニュース|子宮頸がんワクチン副作用問題 兵庫県多可町が被害者補償へ
確実に望みどおりの救済がされるかどうかはわかりませんが、まったく一顧だにされないということはなさそうです。
日本医師会/日本医学会が平成27年8月にまとめた「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」を読むと、傾聴の態度をもって、真摯に優しく接することが推奨されています。
患者として症状を訴えた場合に「気のせいだろう」と一蹴されるようなことは、これからは少なくなっていくのではないかと期待できます。
実際にどのような治療をしてもらえるのか、それがどの程度効果があるのかということについては、厚生科学審議会での報告が参考になります。
たとえば第29回の副反応検討部会では、愛知医科大学学際的痛みセンターの牛田享宏教授の取り組み例を詳細に読むことができます。
第28回の副反応検討部会で、JR東京総合病院小児科の奥山伸彦先生が、そもそもHPVワクチンの問題に限らず、痛みを主体として受け入れる窓口(治療体制)が日本には未整備であること、ペーシェントセンタードメディスン(患者を中心とした医療)の見直しの重要性を指摘されています。
この部会では、医療体制の見直しについても熱心な議論が交わされているのが心強いと思いました。
広く痛みを主体として受け入れてもらえる治療体制が整っていくことを、心から望んでいます。
まとめ
HPVワクチンをめぐる問題は、科学と心にまたがる、複雑で困難な問題です。
科学と心のどちらにも目を配りながら考えるのは、本当に難しいことです。
このような難しいことがらでは、先鋭化した意見が対立しがちです。
自分の意見とは異なる意見の中でも、特に極端なものに目が行き、それを対立する陣営の代表として攻撃する。それをやり返す人が出てくる。またそれを……と、激越なやりとりが延々と繰り返されることもしばしばです。
そして、そのやりとりの間で揺れ動く人たちは置き去りにされます。
「そこまで極端なことは考えていないのだけど、でも……」というような小さなつぶやきもまた、拾い上げられていくとよいなと思っています。