研究者の出産・育児について

会社では、出産や育児と仕事で悩むことがあっても、いろいろな人たちに相談ができる。しかし、考えてみれば、大学には家庭持ちって少ない。大学の研究者で、家庭と仕事の両立に悩む人は、誰に相談をすればよいのだろう。特に女性は孤独だ。

教授・助教授くらいになれば、さすがにお子さんのいる方も多いけど、専業主婦の奥さんに支えてもらっている人がほとんど。あとは、圧倒的に独身者が多い。ましてや、女性で子どものいる研究者なんて、どれほどいるだろうか。


院生のうちに結婚・出産を済ませる女性の話もちらほら聞くが、よほど恵まれた人でないと無理だろう。頼れる親がいて、研究室のボスに理解があることが必須。その上、ある程度、自分に業績のストックがないと踏み切れないと思う。

結婚・出産を機に退学してしまった女性も何人か知っている。


普通の女子院生は、まずは自分のキャリアを積むことを優先し、結婚・出産は後回しになる。その結果、仕事のピークと、私生活のピークが同時に訪れることになる。

特に最近は、博士号をとったとしても、すぐにアカデミックポストが得られるはずもなく、数年の短期雇用(ポスドク)を渡り歩くのが通例。そのような職は、多くの場合、雇用期間と同じ期限つきプロジェクトの予算からお給料が出ている。したがって、期限つきプロジェクトに関わっている限りは(ポスドクをしている限りは)、女性研究者は出産・育児ができない仕組みになっている。自分が休めば、プロジェクトリーダーはすぐに別のポスドクを探すだろう。


このシステムを根本から変えなければ、アカデミック職と家庭の両方がほしい女性は不幸なままだ。私は結局、システムではなく、アカデミズムに残るという希望を変えることで、仕事と家庭を得ることに決めた。今の仕事と生活にはとても満足しているが、アカデミズムに残って頑張っている女性たちを見ると、ふとセンチメンタルになることがある。


キャリアと家庭の両方を望むことはわがままなのだろうか? しかし、男性はそのような思いをしなくても、その両方を得ることができる。女性にだけ、片方で我慢しろ、というのはおかしい。単純な話だ。


繰り返して言う。大学の世界には、家庭をもちつつ働くという普通の生活者が少なすぎる。とてもゆがんだ環境だ。

「家庭は妻にまかせているおかげで、私は業績を上げることができた」という偉そうな男性教官たちや、「女ぶってちゃ仕事なんてできないわ。育休とるなんてとんでもない」という(自称)モーレツ女性研究者たち。社会に開かれた科学を目指すなら、まずは自分たちの生活を見直したらどうだ、と思う。