このところの異常なまでに暑い夜は、人の理性を奪う。
これは、そんな夜に起きた事件である。
昨夜、実験を終えた私は、疲れた足をひきずりながら帰途についた。
11時を回っていた。
本郷三丁目の交差点にさしかかると、前方にはやたらと機嫌のよいオジサマの集団が。
どうやら暑気払いに一杯やっていたとみえる。
アルコールなどという不謹慎な液体は一滴も入っていない私は、タメ息をつきながら、その集団を追い越そうとした。
そのときである。
ひとりのオジサマの臀部付近から、神をも恐れぬ爆音が連続で発せられたのは。
おまけにその御仁の体格はなかなかよろしめであるため、音響には実に迫力のあるヴィブラートがかかっている。
呆然としている私をよそに、同僚諸氏はゲラゲラ笑っている。
ウケたのに気をよくして、紳士はさらにもう一発、力をこめて放った。
・・・誰もリクエストしていないってば。
みなさんは前を向いているからよいが、風下にいるほうの身にもなっていただきたい。
もしかしたら、と息を詰めて彼らを追い越しながら、私は思った。
歩きタバコをする連中に同じ経験をカマしてやり、テメーらのやっていることはこれと同じだ、と言ってやったら、説得力があるかもしれない。
背後では、オジサマたちがまだバカ笑いしている。
「あ~あ。俺、トイレ行きたくなっちゃったア」
などと高らかに叫んでいる殿方も。
まこと、熱帯夜とは人の品性を失わせるものである。