しずかちゃんがやってきた

と言っても、のびたくんの彼女でも、キムタクの彼女でもない。
亀井静香政調会長である。

氏は、私たちがどれほど恵まれない施設で研究にいそしんでいるか、視察に来たのだ。

政治家のセンセイが来る、というのはけっこうな一大事で、前前日から、大学の事務方のえらい人が下調べに来る。
亀井氏をご案内するルートを決めるのだが、なまじなデートコースの下見よりも気合いが入っている。

さていよいよ当日。
朝からM教授はスーツにネクタイ。
ふだんの、白衣腕まくり姿からは見ちがえるようだ。

午後、4年生のA君が、窓から外を見て
「すげー、黒塗りの車が来てる」
と言うので、見てみたらそのとおり。えらそうな車が何台も縦列駐車している。

「今、下のK研究室にいるらしいよ」
などと、次々と入ってくる情報。
わが研究室に、こんなにも優秀な隠密がいたとは。水戸黄門もびっくりである。

さて、いよいよ大名行列がやってきた。
一番最初に来たのはテレビクルー。
続いて、スーツを着た偉そうな人、人、人。
亀井氏は、M教授の部屋にて短い対談をしているらしい。

で、やっとご尊顔を拝せるか、と思いきや、またスーツ&バッジのおじさまの集団。
院生部屋の入り口で、まだかまだかと首を伸ばしていたら、
間近なところで、聞きおぼえのある声がした。

「ここは何をする部屋ですか」

亀井氏だ。思ったより小さい。

「学生や院生が勉強をする部屋です」
などと、皆でお答えもうしあげる。

「何人くらいで使っているの?」
「6人です」
「えっ、ここで6人?」
ざわめきが走る。センセイ方は、ふだん、どんな広いスペースに居住していらっしゃるのだろう。

亀井氏は大きな声で言う。
「そうですか。大変でしょうが、もう少しがまんしてくださいね」
私はすかさずおうかがいした。
「どれくらいでしょう?」
どっと沸いた。
「いや、私が来た以上はちゃんとやりますから。待っていてください」

苦笑いしつつ亀井氏は去った。

あとでM教授が、「よくやった」とほめてくださった。
「どれくらい?」のツッコミは、総長も大喜びであったらしい。

亀井殿、『ちゃんとやる』発言、一大学院生はしっかとおぼえておりますぞ。
理学部2号館の改装と予算アップは、どうぞ在任中にお願いいたします。