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Twitterのコンテンツの利用について-「アホ男子かるた」の話-

 Twitter上に投稿されたツイート(つぶやき)に漫画をつけてまとめた書籍「アホ男子かるた」が、無断転載であるとして、ネット上で騒動になっていた。

 TwitterのようなSNSソーシャルネットワーキングサービス)を初めとして、インターネット上には、独創的な文章や絵などが、日々投稿されている。これらの投稿を、ただ時間とともに流れ去るままにしておくのは、いかにももったいない、書籍等の新しい作品として構成したい、という動きが出てくるのはごく自然なことだろう。インターネット上に投稿されたものを、別の形に構成することで、まったく新しい価値のある作品が生まれる可能性も大いにある。しかし、インターネット上に投稿する人の数は膨大で、そのほとんどが匿名であったり、アカウントが予告なく削除されることも多い。このような状況の中、最初に投稿した人の権利をどのように尊重するかが問題となる。

 多様な文化の発展のためには、著作物をできるだけ自由に利用できることが望ましいが、著作者の権利はしっかりと守られなければならない。

 今回の騒動には、著作物の自由な利用と著作者の権利との均衡という、著作権における根本的な問題が典型的に表れていると思うので、少し考えてみたい。

ことの経緯

 今回の騒動について、当事者のおひとりであるイシゲスズコさんが、ブログに詳しく書かれている。

「アホ男子かるた」出版の件 - スズコ、考える。

 簡単にまとめると、以下のような経緯であると理解している。

 2012年10月末ごろから、Twitter上で、息子たちのアホかわいらしい言動に悩んだり、なごんだりしているお母さんたちが、「#アホ男子母死亡かるた」というハッシュタグ(共通のテーマのようなもの)のもとに、さまざまなツイートを投稿していた。(「#アホ男子母死亡かるたまとめ」にまとめられている)

 およそ1年後、そのお母さんたちのひとりの甘井ネコさんに、これらのツイートをもとに、「アホ男子かるた」という書籍をつくってみないか、と、出版社(株式会社ユーメイド)から声がかかった。このあたりの経緯は、甘井ネコさんのブログ「「アホ男子かるた」の作り方」の「第03話 一年後の奇跡」に書かれている。

 甘井ネコさんご本人は、当然、オリジナルのツイートをした人たちの著作権の処理が気になり、出版社に確認されたそうだ。実際、甘井ネコさんは、騒動を受けて、

書籍化に際し、出版社さんのサイドで、Twitter社さん等の許可などはクリアされているという事で、このお話を受けた次第です。

http://twitter.com/amaineko3/status/427658810115624960

と話している。

 しかし、オリジナルのツイートをした人たちは書籍化について知らなかったため、書籍の発売直前に大騒動となった。

 書籍の紹介サイトを見ると、オリジナルのツイートをした人たちのアカウント名は一切記載されていない様子であることがわかる。また、甘井ネコさんご自身も、ご自分のツイッターで「我が家のアホ男子がモデルの漫画「アホ男子かるた」来年2月3日発売決定しました!」と告知している。

 これを見た人たちが、「私たちのツイートなのに、どういうこと?」と驚くのも無理はない。

 その上、書籍発売決定の告知とともに、編集部が「#アホ男子かるた」という新しいハッシュタグをつくって、twitter上で投稿を募り、オリジナルの「#アホ男子母死亡かるた」の投稿内容とは少しずつ表現が違う投稿を集めた新しいまとめがつくられていることもわかった(アホ男子・絵札|アホ男子かるた編集部のブログ)。ここで新しい投稿をした人たちは、甘井ネコさん以外は新しくつくられたアカウントのようだったらしい。

 このことから、オリジナルの「#アホ男子母死亡かるた」はなかったことにしつつ、オリジナルのツイートを少しずつ改変したツイートを書籍に収録しようとしているのではないか? とさらに非難の声が大きくなった。

 昨日夜遅く、出版社から、書籍の発売を無期延期とする旨の発表があった。

 この発表では、以下のように述べられている。

 ツイッター投稿者の皆様からの理解を得ないまま出版準備を進めておりましたことにより、投稿者の皆様に不快な思いを与えてしまったことにつきまして、深くお詫び申し上げます。

 本件に関する出版までの流れですが、企画段階において関係各所に問い合わせた結果、ブロードキャストでのツイート利用に関するガイドラインhttps://support.twitter.com/articles/277644-#)に準拠した形での利用であれば問題は無いとの判断に至り、漫画家甘井ネコ先生に漫画の執筆をお願いすることとなりました。

 漫画を執筆いただいた甘井ネコ先生には、弊社の判断ミスにより多大なるご迷惑をお掛けいたしましたことをお詫び申し上げます。

 弊社と致しましては、事前にツイッター投稿者の皆様へ個別にご連絡をさせていただくことも検討いたしましたが、ツイッターの特性上、個別にご連絡を差し上げることが非常に困難であり、現実的ではないとの判断により弊社からの個別のご連絡を断念した次第です。

 末筆となりますが、本書の出版をお待ちいただいておりました皆様にご迷惑をお掛けいたしましたこと、重ねてお詫び申し上げます。

 一冊の本を発売直前まで仕上げるために、どれだけの労力と時間とお金が費やされたかを思うと、円満な形で解決していればよかったのに、と残念に思わざるを得ない。

 また、書籍化の経緯について疑念を発した人たちも、書籍化をまったく白紙に戻してほしいとまで願っていた人は少なかったのではないか。

 「無期延期」とのことなので、オリジナルのツイートをした人たちも納得できる形で、なんとか望ましい形に再構成できればいいのに、と一消費者としては思う。

 それにしても、どうしたらこのような事態を避けることができたのだろうか。以下で考察してみる。

ツイートを本にするために、投稿者に個別の許諾を得る必要はあるか

 Twitterの利用規約を見てみると、第5条「ユーザーの権利」の以下の個所が関連しそうだ。

ユーザーは、本サービス上にまたは本サービスを介して、自ら送信、投稿、または表示するあらゆるコンテンツに対する権利を留保するものとします。ユーザーは、本サービス上にまたは本サービスを介してコンテンツを送信、投稿、表示することをもって、媒体または配布方法(既知のまたは今後開発されるもの)を問わず、かかるコンテンツを使用、コピー、複製、処理、改変、修正、公表、送信、表示および配布するための、世界的な非排他的ライセンスを(サブライセンスを許諾する権利と共に)当社に対して無償で許諾するものとします。

ユーザーは、このライセンスに、Twitterが本サービスを提供、宣伝および向上させるための権利が含まれること、ならびにコンテンツ利用に関する当社の条件に従うことを前提として、本サービスに対しまたは本サービスを介して送信したコンテンツを、他の媒体やサービスで配給、配信、配布または公表することを目的として、当社のパートナーとなっている他の会社、組織または個人に対して提供する権利が含まれることに、同意したものとします。

Twitter、またはTwitterのパートナーとなっている他の会社、組織または個人は、本サービスを介してユーザーが送信、投稿、転送または提供するコンテンツについて、ユーザーに報酬を支払うことなく上記のように追加的に利用できるものとします。

 この規定を素直に読めば、ユーザーは、ツイート内容(コンテンツ)の著作権をもっている。それと同時に、ユーザーは、コンテンツを利用するためのライセンスをTwitter社に対して無償で許諾している。さらに、コンテンツを利用するためのライセンスを、別の第三者に対してTwitter社が許諾する権利(サブライセンス)も許諾している、と読める。

 つまり、Twitter社は、特にユーザーの許諾を得ることなく、ユーザーのツイートを利用することができる。そして、第三者も、Twitter社の許諾を得さえすれば、個別のユーザーの許諾を得ることなく、ユーザーのツイートを利用することができそうだ。このこと自体は、著作物の利用をより自由に、簡便にするものとして、私自身は好ましい方針であると思っている。

 今回のケースでは、オリジナルの「#アホ男子母死亡かるた」のツイートを書籍化することについて、出版社がTwitter社から許諾を得ていたとすれば、個別のユーザーに連絡を取ることまでは求められていなかったはずなのだ。

 本来、Twitterのユーザー一人一人がこの規約について理解しているべきなのだが、実際、なかなか難しいことだろうと思う。

 出版社側は、書籍化が決定した段階で、オリジナルのハッシュタグをつけてTwitter上で書籍化を告知している(アホ男子かるた - Togetter)。つまり、オリジナルのツイートをした人たちにも書籍化の方針を伝える意図があったと見えなくもない。この段階で個別の許諾の必要性についても説明していれば(必要があれば編集部ブログ等でも)、オリジナルの投稿者たちの多くにも早い段階で周知できただろうし、ここまでの騒動にはならなかったのではないか。

ほかに問題点はないか

 ただし、日本の著作権法では、著作者には、著作者人格権という権利が認められているので、注意する必要がある。

 たとえば、著作者人格権のうち、氏名表示権(著作物に、氏名(実名でも変名でもよい)を著作者名として表示するかしないかを決められる権利)については、オリジナルの投稿者のアカウント名等をあらかじめ表示しておくという対応をしておけばよかった。オリジナルのツイートはアカウント名を表示してなされているので、投稿者には「氏名を表示したい意思がある」との推定してよさそうだからだ。しかし、今回のケースの書籍では、投稿者のアカウント名は、甘井ネコさん以外は表示されていないように見える。この点はうまくなかったと思う。

 また、著作者人格権のうち、同一性保持権(著作者の意に反して改変を受けない権利)については、オリジナルのツイートの表現を変える場合は、あらかじめオリジナルの投稿者の許諾を得ておくのが無難だろう。

 今回のケースにおいて、オリジナルの表現を少し変えたように見えるツイートのまとめをつくり、それらのツイートを収録する、というような工程を経たのは、どのような意図があったのかはわからないが、やはりうまくなかったと思う。

 また、Twitterのユーザー側も、利用規約に同意してTwitterを利用している以上、「自分に直接の連絡がなかったのに、"勝手に"自分のツイートが利用されている! 著作権侵害だ!」と焦るべきではない。

 自分のツイートを利用した人や会社がTwitter社にツイートの利用許諾を得ているかどうか、きちんと確認してから抗議しても遅くはないはずだ(今回のケースでは、オリジナルの投稿者の一人であるイシゲスズコさんは、最初にTwitter社に確認しようとされていたが、返事を得られなかったようだ。会社に直接聞いた方が早かったかもしれない)

 ところで、今回のケースにおいて、出版社側は

企画段階において関係各所に問い合わせた結果、ブロードキャストでのツイート利用に関するガイドラインhttps://support.twitter.com/articles/277644-#)に準拠した形での利用であれば問題は無いとの判断に至り

と述べている。この点が少し不思議である。

 当該ガイドラインでは、Twitterにおけるブロードキャストについて、

以下を含みますが、この限りではありません。メディアが提供する(全ての形態のテレビ、ラジオ、衛星放送、インターネットプロトコル、ビデオ、専用の無線ネットワーク、インターネット販売など)全てのツイートの展示、配布、放送、複製(再生)、公共パフォーマンス、その他一般に公開されるものです。これは既存のもの、現在開発中のものを問いません。

と規定されている。

 これを素直に読むと、このガイドラインは放送や有線放送、自動公衆送信のような公衆送信によるツイートの利用を意図しているようにも思える。しかし、ここで規定される「メディアが提供する一般に公開されるもの」から、紙媒体の書籍が明確に排除されているとも断言することはできない。したがって、仮に、書籍についてもこのガイドラインに準拠した形でツイートを利用できるとして考えてみよう。

 この場合、確かに、ガイドラインに従っていさえすれば、特定の場合(広告や、製品・サービスの保証のためにツイートを利用する場合)を除いて、Twitter社やオリジナルの投稿者の許諾を得る必要はない、という規定になっている。

 しかし、このガイドラインにおいては、「すべきこと」として、各ツイートにユーザーの名前とユーザー名(@ユーザー名)を表示することが明示されている。

 そして、ユーザーの正体を削除、ユーザーを特定する情報を削除、改ざんしたり、不明瞭にしたりすることや、ツイートを匿名のまま掲載すること(ユーザーの安全性が懸念されるような場合を除く)は、「してはいけないこと」として明確に禁じられている。

 今回のケースは、このガイドラインに準拠しているようには見えない。

 どの点をもって、「このガイドラインに準拠している」と判断したのか、また、問い合わせをした「関係各所」とはどこなのか、差し支えのない範囲で公開した方が、理解が得られやすいように思う。

 たとえばTwitter社に問い合わせてOKが出たのなら、そのことをはっきりと述べておいた方が、よけいな詮索を招かなくて済むのではないだろうか。

Twitter上のコンテンツを利用して新しい作品をつくることには、常に炎上リスクが伴うのか

 このような騒動があると、Twitterのようなインターネット上のコンテンツを利用して新しい作品をつくることはリスクが高いのではないか、と心配される向きもあるかもしれない。

 特に規模の小さな出版社等であれば、多大な労力と費用をかけてつくった作品が、数日の炎上でおじゃんになってしまうことのダメージは極めて大きい。

 その意味で、対応を誤ったときのリスクは非常に大きいと言えそうだ。

 しかし、今回のケースは「よりよい対応」が(事後的ではあるが)いくつも思いつくものではある。したがって、Twitter等のインターネット上のコンテンツを利用して新しい作品をつくろうとする場合に、常に今回と同程度のリスクがある、とまでは私は思わない。

 インターネットコンテンツの成長は著しく、エキサイティングだ。一年後、もしかすると数ヶ月後でさえも、どのようなコンテンツが登場するか、正確に予測することのできる人はいないだろう。それらのコンテンツを利用して、今は予想もできない価値のある作品を新たに生み出すことができるかもしれない。

 コンテンツの利用者と提供者が最大限の利益を得ることができるシステムをさらに改良していくことによって、ますますおもしろいものが自由につくれる世界になっていくといいと思っている。

追記:Twitterのコンテンツの二次利用は、APIを使用した場合に限られるのか

 この記事に関し、「TwitterAPIに関する規約を「投稿の利用」って読んじゃうと起きる誤解。」とのご指摘をいただきました。

 このご指摘のほかにも、「Twitterのコンテンツの二次利用についてユーザーが許諾を与えたのは、APIを使用した場合に限られる」と解釈できるとお考えの方もいらっしゃるようですので、以下に私の考えを述べておきたいと思います。

 「Twitterのコンテンツの二次利用についてユーザーが許諾を与えたのは、APIを使用した場合に限られる」という解釈の根拠は、Twitter利用規約の第5条の中に「ヒント(原文では"Tips")」として挿入されている以下の内容ではないかと思います。

Twitterは、エコシステムパートナーによるユーザーのコンテンツの取扱いについて、進化し続けるルールを定めています。これらのルールは、ユーザーの権利を尊重しつつオープンなエコシステムを実現するためのものです。ただし、ユーザーのコンテンツをユーザー自身が所有していることには変わりありません-ユーザーのコンテンツ(コンテンツには写真も含まれます)の所有権はユーザーにあります。

このヒントの中の「進化し続けるルール」として、「Developer Rules of the Road」というAPIを使用してTwitterのコンテンツを利用する場合のルールにリンクが貼られています。

 このことから、Twitterのコンテンツを二次利用することができるという許諾をTwitter社から与えられているのは、APIを使用したサービスを提供する「エコシステムパートナー」のみである、と解釈されたものと考えます。

 しかし、この解釈に依存して実際の紛争に臨むのは、あまり得策ではないように思います。たとえば、以下のように反論されたらどうでしょうか。

 ユーザーの権利に関する原則は、あくまで、第5条の第1パラグラフにおけるサブライセンスに関する規定にあると読むべきである。

 エコシステムパートナーに関する記載は「Tips」として挙げられていることから、APIを使用した場合を代表的な事例としてTwitter社は想定しているようだ、ということは読み取れても、サブライセンスの許諾先を、このヒント中のエコシステムパートナーのみに限定した、と読むことには無理がある。(このTipsの直前の規約本文の中に、「他の媒体やサービスで配給、配信、配布または公表することを目的として、当社のパートナーとなっている他の会社、組織または個人に対して提供する権利が含まれることに、同意したものとします」との記載があるが、この「パートナー」イコール「エコシステムパートナー」と断定することにも無理がある)

 そして、書籍においてTwitterのコンテンツを利用する場合が明示的に除かれていないことからも、「Twitterのコンテンツの二次利用についてユーザーが許諾を与えたのは、APIを使用した場合に限られる」とは言えない。

 この反論に立ち向かうことがまったく不可能であるとは思いませんが、相当に困難なのではないでしょうか。

 あえて困難な路線を選ぶよりも、より確実にユーザーの権利を守ることのできる方向で戦ったほうが得策ではないかと思います。