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福島における「全ゲノム解析」について、細野環境大臣に質問

福島で「全ゲノム解析」 被曝調査で環境相表明

というニュースを見ました。

 *追記(2012年9月2日)

 ほかにも、福島民友ニュース「 県民の遺伝情報解析 子ども中心、13年度から」や、毎日新聞環境省:被ばく影響でゲノム調査 専門家は疑問の声」等の記事があります。追記ここまで。*

 細野大臣は「政府としてしっかりと(福島に)向き合っていく。遺伝子の調査はすぐに不安の解消にはつながらないかもしれないが、人間の根源的な遺伝子を調べることで将来への予防になる」とお話になったとのことです。

 まず、『政府としてしっかりと(福島に)向き合っていく』という姿勢を表明されたことを歓迎します。特に線量の高い地域(高かった地域)については、かつて住民だった方も含め、住民の皆さんの健康管理を、国が責任を持って継続的に行っていくべきだとわたしは考えています。

 しかし、今回の「全ゲノム解析」については、その意義がよくわかりません。

 ゲノム情報は究極の個人情報といえるものですし、たとえ特定個人との紐付けを外したとしても、不適切な解釈がされることによって、思わぬ差別を生むきっかけとなるおそれもあります。

 政府としてこのようなプロジェクトを推進されるのであれば、もっと詳しく、丁寧な説明が不可欠だと思います。

 細野大臣に質問したいのは以下の3点です。

1.ゲノムを解析する目的は何か

2.ゲノムを解析することが、健康管理にどう役立つのか

3.解析したゲノム情報をどのように扱う予定なのか

ゲノムを解析することで、何がわかるのか

 たとえばひとりの人間の体の細胞のひとつひとつを見ると、どの細胞にも同じDNAのセットが入っています。このDNAのセットを「ゲノム」と呼ぶことが多いと思います。ゲノムの中には、数多くの遺伝子情報が含まれています。

 ふつう、体のどこの細胞を取ってきても同じDNAのセットが入っていますが、有害な刺激を受けた細胞、たとえば強い紫外線を受けた皮膚の細胞や、タバコの煙にさらされた喉や肺の細胞、そして強い放射線を受けた細胞などでは、DNAの一部に傷が入ることがあります。特に有害な刺激を受けない場合でも、たまにDNAの一部に傷が入ることもあります。

 たいていの場合、細胞はDNAに受けた傷を修復することができますが、受けた傷が多い場合や、細胞が増える速度に修復速度が追いつかない場合などでは、DNAに傷が残ったままになることがあります。

 それでも、DNAに含まれるたくさんの遺伝子のうちのたった1つが傷ついたくらいでがんになることはまれです。

 がんの原因となる遺伝子のいくつかに、修復しきれなかった傷がたまっていくことで、その細胞ががん細胞に変化する可能性が高くなります。

 今回のプロジェクトでは、東京電力福島第一原発の事故で拡散された放射性物質によって、近隣の住民の体の細胞に含まれるDNAが何らかの傷を受けたかどうかを調べることを目的としているのだと理解しています。

 この理解で間違いないでしょうか、というのが質問の第一点目です。

ゲノムを解析することが、健康管理にどう役立つのか

 上記のわたしの理解が正しいとすれば、はたして、通常の手法で個人のゲノムを調べることで、今回の原発事故によるDNAへの影響を検出することができるのか、疑問です。

 まず、放射性物質によってDNAが傷を受ける場合、DNAのどの部分にどのような傷が入るかは、細胞によってさまざまです。

 たとえば唾液からDNAを抽出して解読する、というような手法で調べた場合、皮膚とか腸とか肺とか、ほかの場所の細胞のDNAが傷を受けたかどうかはわかりようがありません。

 そもそも、ふつうはたくさんの細胞をいっしょくたに集めてDNAを抽出して解読するので、そのうちの1つや2つの細胞のDNAに傷が入ったとしても、エラーとして処理されてしまい、「傷が入っている」と正確に検出することができない可能性が高いと思います。

 また、DNAの同じ場所をさまざまな人の間で比べると、ちょっとずつ違いがあります。これをDNA多型といいます。血のつながりがあると、このDNA多型のパターンがよく似ていて、血のつながりがないと、DNA多型のパターンはかなり異なることは、親子鑑定などでも知られているところです。

 そもそもDNAには人によってさまざまな違いがあるのに、「これはこの個人のDNAだけに生じた特別な傷だ」と判定することは、とても難しいはずです。

 仮に「これはこの個人のDNAだけに生じた特別な傷だ」といえるものを見つけたとしても、それが原発事故で拡散された放射性物質が原因であると推測することは、さらに困難(というか事実上無理)だと思います。

 そのような推測を裏付けるためには、原発事故前のサンプルと、原発事故後のサンプルの両方を、同じ個人からとってきて調べる必要があるはずだからです。

 それが無理でも、原発事故の影響をまったく受けていないことが確実な人たちから、多数のサンプルを集めて解析し、比較する必要があると思います。

 もし、特定の個人の体のどの部分の細胞をとってきても「DNAに傷が入っている」と検出可能である程度に、均一に放射性物質の影響を受けているとすれば、それはとんでもなく強い放射線を受けている場合に限られるはずです。そのような場合、ゲノムを調べるまでもなく、現に重篤な健康被害が出ているでしょう。

 そう考えると、今回のプロジェクトで福島の方々のゲノムを調べることで、いったいどのような情報が得られるのでしょうか。

 そして得られた情報を、どのように「将来の予防」に役立てることができるのでしょうか。

 そもそも「将来の予防」とは、どういったことを想定されているのでしょうか。

 この点、ぜひとも細野大臣にはご説明いただきたいと思います。

解析したゲノム情報をどのように扱う予定なのか

 最後に、たくさんの人から集めたゲノム情報を、どのように扱うご予定なのかをうかがいたいと思います。

 ゲノム情報は究極の個人情報ですから、厳重に秘密として管理されるであろうとは思います。しかし、そうすると、逆に、その情報からどのような結論が導かれ、公表されたとしても、その結論の正しさを第三者が検証することは困難になってくると思います。

 特定の個人との紐付けを外したとしても、集団としてゲノム情報を解析した場合、解釈の仕方によっては、何らかの傾向を見出すことは不可能ではないかもしれません。

 そういった「傾向」について発表する場合は、十分な根拠をもってなされなければならないし、差別が生じるおそれについても、あらかじめ十分な検討を行うべきだと思います。

 今回のプロジェクトの結果、どのような結論が導かれることを想定しているのか、想定される様々な結論について、どのような対応をしようとお考えなのか、この点についてもご説明いただきたいと思います。

 なお、個人的には、全ゲノム解析に費用と労力を投じる前に、緻密な健康診断等、もっとなされなければならないことがたくさんあるはずだと考えています。