『年忘れ二ツ目の会プラス喬太郎』(浅草演芸ホール)

 仕事納めの昨日、ほんとに納まるかどうか心配してたのですが、思いのほか早めに上がれたので、ぼーんと浅草演芸ホールに飛び込んで、聴いてきました。

『年忘れ二ツ目の会プラス喬太郎

 小太郎さんの『猫と金魚』の途中から、最後列下手側に滑りこんで、わたしとしては珍しくビールも飲まず(!)、お茶だけで聴きとおしました。

 若手ホープの皆さんをまとめて聴ける&喬太郎さんが聴ける、というので、とてもおいしい会だったと思います。これから伸びそうな若手の噺家さんに目をつける楽しみというのは、これはなんともいえないものがあります。この会には、昼夜合わせて、いまいる二ツ目さんのおよそ半数の方が出演されたとか。

 客席は、5時半すぎくらいで八分どおり埋まっていて、終演前にはほとんどいっぱい。わりと反応のよいお客さんが多かったように思います。

 印象に残った噺を以下に。

柳家初花さん『ハンカチ』

 新作落語、だと思います(どなたの作だったかは存じ上げず)。

 夫婦喧嘩のあげく、ぷいと家を出た夫が、ひょんなことから「妻への愛を叫ぶ会」に出場。妻の悪口を言いながらも、なんと優勝してしまう。家に帰ってみると……というお話。

 落語に夫婦の話は多いですが、王道を行くようなおもしろさとあたたかみのある噺です。

 初花(しょっぱな)さんの演じる夫の無愛想さ、不器用さがなんともリアルで、大笑いしたし、ちょっとほろりともしました。

古今亭菊六さん『稽古屋』

 モテようと思って芸事を習いに行った無作法な男が、稽古屋で引き起こすドタバタ。

 お師匠さんがみいちゃんという女の子に踊りの稽古をつける場面は、ほんとにその場で踊る小さな子が目に浮かぶようで、見入ってしまいました。

 ただ、唄がもう……ちょい……かなあ。

 登場人物がみんないきいきしていて、よかったです。

林家ぼたんさん『半分垢』

 長く修行に行っていた関取が帰ってきた。さっそく訪れてきた客に、おかみさんがおおげさに関取の自慢をする。それを隣の部屋で寝ながら聞いていた関取は、「あまり大きい大きいとこちらから自慢をするものじゃない」とたしなめる。おかみさんは「せっかくほめたのに」とふくれっつらをしながらも、次に来た客には、できるだけ関取を小さく言おうとして……、というお話。

 当節、女流もめずらしくなくなりました。

 ぼたんさんも、柳亭こみちさんもそうですが、若手の女流は、アニメで少年の声を担当する声優さんのような声質の方が向いているようです。

 ぼたんさん演じるおかみさんは、関取が好きでしかたないんだろうな、ほんとにもう、とつつきたくなるくらい、可愛らしくて、元気でよかったです。

柳家右太楼さん『猫の皿(猫の茶碗)』

 言わずもがなの「高麗の梅鉢」のお話。

 すっとぼけた、ちょっとずるい茶店の爺さんがなんともよかったです。

 道具屋さんが茶店からまわりの景色を見渡す場面は、見せどころ、きかせどころだと思いますが、ふーっと涼しい風が吹いてくるようでした。

桂才紫さん『熊の皮』

 女房の尻に敷かれっぱなしの、八百屋の甚兵衛さん。「あたしからだと言いなよ」と女房に指図されるままに、近所の医者のところに赤飯をもらったお礼を言いにいく。しどろもどろになりながらも口上を述べ終わると、医者が到来物の熊の皮を見せてくれる。「これは何にするものですか」「尻に敷くものだ」というところで、甚兵衛さん、もうひとつ女房の伝言を思い出す、というお話。

 才紫さん、今回は代演ということでしたが、聞けてよかったです。終始大爆笑でした。

 正直の上にバカがつく、という役回りの甚兵衛さんが、憎めないような、憎めなさが過ぎてちょっといらいらするような、絶妙な人物になっていました。

 次の喬四郎さんの到着が遅れて、つなぎに踊ってくれた「かっぽれ」が、これまた楽しかったです。一気に寄席(主に客席)の一体感が増した感がありました。

林家たけ平さん『紀州

 七代将軍、徳川家継候が若くして亡くなり、次代将軍を決めるお話。

 

 まくらが長くて(楽しくてよかったですが)どうなることかと思ったら、みごとにおさまりました。

 ふざけまくっているようでいて、ぴーんと芯が一本とおっているので、安心して聞けます。

柳家喬太郎さん『擬宝珠』

 待ってましたの真打。

 たぶん珍しい噺で、調べたら、喬太郎さんが復活させたようです。

 若旦那が原因不明の病で寝ついてしまった。困り果てた大旦那が、若旦那の幼なじみの熊さんに、「ちょっと理由を探ってきてくれ」と頼む。「若旦那、原因はなんですか。どうせイロでしょう」「…………」「え? イロじゃない。ってことはこの噺は『崇徳院』じゃねえんだな」

 実は、若旦那の患いの原因は「擬宝珠が舐めたい」というもの。若旦那は金物フェチだったのだ! しかもそんじょそこらの橋の擬宝珠はもう飽きたという。若旦那が舐めたいのは、なんと浅草寺五重塔のてっぺんにある宝珠。熊さんはしかたなく大旦那に相談して……。

 とまあ、とんでもないお話なんですが、腹がよじれるほど爆笑しました。

 大旦那が「……親子だねえ」と自分の金物フェチをカミングアウトするところ、そして大旦那夫妻の馴れ初めも金物フェチであったことが判明するところは、笑い死ぬかと思いました。

 寄席がはねる前に、喬太郎さんがひとことご挨拶。

 楽屋に残っていた二ツ目さんたちも呼んで、喬太郎さんの音頭で三本締め。

 寒柝が響く冷えこんだ外に出たら、ものすごく愉しいような淋しいような、胸がイリイリする気持ちになりました。年末らしい、よい会でした。