不正競争防止法・珍問集

 昨日、twitterの一画でちょっと話題になりましたが、弁理士試験は難関として知られている割に、おちゃめな問題がときどき出題されます。 
 不正競争防止法の分野に多いのは、なんででしょうね。

ダンディ甲田(平成18年)

 受験生の間で知らない者はない(はずの)、カリスマ美容師・甲田三郎。

〔1〕甲田三郎は、個人で美容院を営む美容師である。甲田は、いわゆるカリスマ美容師で、需要層である女性の間では、全国的に、甲田三郎の名を知らない者はいないといわれるほどであり、彼女たちには「ダンディ甲田」とも呼ばれているし、甲田三郎も彼の美容院に「ダンディ甲田の店」と記した看板を掲げている。
また、甲田が得意とする巧妙なヘアカットの手法は、従来から存在するものではあるが、近年では、世間で「甲田カット」と呼ばれるようになった。不正競争防止法上の不正競争に関し、次のうち、最も適切なものは、どれか。
 
1 乙川三郎という名前の美容師が、「ヘアサロン三郎」という名称で美容院を開業して営むことは、不正競争となる。
 
2 市販されているビデオテープや雑誌を見て甲田カットを習得した美容師が、彼の営む美容院において「甲田カットできます。」と書いた貼り紙を掲示することは、不正競争となる。
 
3 甲田三郎がベルトに数多くのフックを縫いつけて、くし、ブラシ、ハサミ、ペンシルなどをぶらさげているのに目をつけた服飾メーカーが、数多くのフックを縫いつけたベルトを売り出すことは、不正競争となる。
 
4 甲田三郎のもとで修行したことのある美容師が、彼が開業した美容院のチラシに「甲田三郎のもとで修行したことがある。」と表示することは、不正競争となる。
 
5 化粧品メーカーが、甲田三郎の同意を得ることなしに、女性向けのヘアスプレーに「Saburo Koda」という商品名を付けて販売することは、不正競争となる。

 ここまでディテールに凝っていながら、聞かれている内容は非常に易しい。
 いろんな意味でサービス問題。

 解説は、吉田ゼミのがわかりやすいと思います。
 (吉田先生風味の問題でもあるし)

アラキジ・ラーメン(平成21年)

 昨年の本試でこれを見たときは、むしょうにラーメンが食べたくなり、帰りにラーメン屋に飛び込みました。

〔6〕甲は宮崎市でラーメン店を営んでおり、その商号「アラキジ・ラーメン」は市内のラーメン好きの間で広く知られている。また、その顧客の間では、「アラメン」が、甲のラーメン店の通称として広く用いられている。これを前提として、次のうち、最も適切なものは、どれか。
 
1 甲の「アラキジ・ラーメン」の商号が宮崎市内でしか知られていない場合において、乙が札幌市でラーメン店の営業に「アラキジ」という商号を使用する行為は、不正競争防止法第2条第1項第1号の不正競争となる。
 
2 丙は、甲の「アラキジ・ラーメン」の商号が宮崎市内で広く知られるようになる前に、甲のラーメン店の存在を知らずに「アラキジ・ラーメン」を商号として採用し宮崎市内で使用していた。この場合において、甲は丙に「アラキジ・ラーメン」の商号使用の差止めを請求できる。
 
3 丁は、甲の「アラキジ・ラーメン」の商号を知らずに、「アラキジ・ラーメン」という商号のラーメン店を名古屋市で開業し、名古屋市内では「アラキジ・ラーメン」は丁の商号として広く知られるようになっていた。このような状況において、甲が「アラキジ・ラーメン」の商号を用いて名古屋市に支店を出した場合、丁は、甲に対して、不正競争防止法第2条第1項第1号に基づいて「アラキジ・ラーメン」の名古屋市内での商号使用の差止めを請求できる。
 
4戊が宮崎市で「アラメン」という商号をラーメン店の営業に使用する行為は、甲自身が「アラメン」を自己の商品等表示として使用していなければ、不正競争防止法第2条第1項第1号の不正競争とならない。
 
5甲自身が広告チラシ等で「アラメン」を自らの商号の通称として使用している場合において、宮崎市の手芸用品店己が、「ア・ラ・メン」という商号を使用する行為は、不正競争防止法第2条第1項第1号の不正競争となる。

 
 ・謎の言葉・アラキジ。
 ・にもかかわらず、妙にリアルな「アラメン」という通称。
 ・フランス語ふうの、ありそでなさそな商号「ア・ラ・メン」。
 「これを前提として」……って、言われてもなあ。いやするけどさ。


 甲田三郎ほどのインパクトはないものの、独特な世界観が魅力の問題です。
 

天狗大学(平成19年)

 どんな大学だよ。

〔50〕学校法人である甲大学は、戯画化された天狗(てんぐ)の顔をマスコットとして、学生募集のためのパンフレット、大学附属病院の案内などに利用し、また、甲大学の審査に合格したものに限り、この天狗の顔を表示することを認めている。
甲大学は、この天狗の顔を長年利用しており、甲大学といえば天狗、天狗といえば甲大学、と言われるようになっている。この状況を前提として、不正競争防止法上の不正競争に関し、次のうち、最も適切なものは、どれか。
 
1 乙予備校が、「当予備校の講師陣は甲大学の学生を多数そろえており、甲大学の入試対策には圧倒的に強い。」とする広告において、甲大学のマスコットである天狗の顔を表示した。甲大学は、教育を営利目的で行っているわけではないから、乙予備校に対して、この天狗の顔の使用について、差止請求をすることはできない。
 
2 甲大学医学部出身の医師たちが、同窓会の案内はがきに、甲大学のマスコットである天狗の顔を掲載した。甲大学は、このはがきの発送について差止請求をすることができる。
 
3 丙社は、甲大学の審査に不合格となったにもかかわらず、甲大学のマスコットである天狗の顔を自社の製品のパッケージに表示して販売した。甲大学は、パッケージにおける天狗の顔の表示の抹消だけでなく、製品の廃棄も請求することができる。
 
4 丁社は、自社の製品のパッケージに甲大学のマスコットである天狗の顔を表示して販売した。甲大学が、仮に丁社が正当に甲大学から許諾を受けて天狗の顔を表示したとすれば甲大学の規定に従って支払っていたはずの対価に相当する金額を、丁社に対して損害賠償として支払うことを求めた場合、丁社は、甲大学の現実の損害はもっと少なかったという反論ができる。
 
5 前記選択肢4の場合において、甲大学は、甲大学の損害が通常の対価の額よりもさらに大きかったという主張ができる。

 「甲大学といえば天狗、天狗といえば甲大学」……どちらかといえば居酒屋ではないでしょうか。

 また、乙予備校の広告が、無駄にリアルです。

 そして、ここでも出てくる「この状況を前提として」。言われりゃ前提としますけども、なんつー状況だとは思います。