いつ帰ってきたんだろう

娘も8ヶ月半ばを過ぎ、私は当たり前のような顔をして「おかあさん」になっている。


数ヶ月前、娘がまだまだ小さかったころ、なんだか不思議な感覚の中に暮らしていた。

どこか知らない遠い国に、とても長い旅に出ているような感じ。

ずっとたくさんの人の中で学び、働いてきた私の人生の中で、急に訪れた、娘という赤ちゃんと二人だけの時間。

相手は、言葉は通じるような通じないような。気持ちも通じるような通じないような。それでも人間であることは確かで。

娘を中心に暮らしていると、言語も思考も自由に操れる大人であるはずの私が、なぜかエトランゼのような気分になる。


今、気づけば、また私は私の暮らしの中に戻ってきている。

あの不思議な旅から、いったいいつ帰ってきたんだろう。


確かなことは、これからも私は生きていくということ。

どのように生きていくのかを、今一度、しっかりと考え直さなくてはいけない。


昆虫の共生細菌の研究を放り出して、夫と一緒になり、今の会社に就職した。

アカデミアのキャリアと男を秤にかけて、男を取ったと思われるのが(というか自分で思うのが)嫌で、妊婦の身でがむしゃらに働いた。入社一年、妊娠9ヶ月で学会発表までこぎつけもした。

好きな人と一緒に暮らし、自分も仕事を続けるための決断なのだから、胸を張っていれば良いのに、アカデミアへの未練はたらたらで、なんと潔くない自分だっただろう。


会社で配属されたチームは、これまでの専門とはまったく異なる分野。

基本的な研究の方法論は、さすがにある程度身についているし、なんでもおもしろがれるのは私の長所であると自負しているが、これから生きていく世界は、これまでとはまったく違う。

今までのキャリアはいったん、完全に切れたことを、私はきちんと認めなくてはいけない。

後戻りは、できないのだよ。


愛する共生細菌たちよ。

大したことはしてあげられなかったけど、これからは、私ではない誰かが、君たちをたくさんかわいがってくれるだろう。その誰かは、私のように中途半端に君たちを放り出したりはしないだろう。

ちょっと妬けるけど、私は私で頑張るよ。

虫のいいお願いだけど(昆虫の共生細菌だけにね)、ときどきは私を思い出して応援してくれるとうれしいな。


さて。

明日から、仕事に真正面から向き合おう。




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