II.西鶴から見た人間太宰治 (3)聖諦へ−西鶴以後ー

 まず、“聖諦”の説明をしておこう。辞書には出ていない。太宰の造語である。

 太宰は「新釈諸国噺」を昭和19年1月に発表した後、「津軽」、「惜別」、「お伽草子」を、戦火に追われつつ次々と発表している。“聖諦”は「お伽草紙」の第2話、「浦島さん」に出てくる言葉である。
 ただ静かで薄暗く、「見渡したところ冥土もかくや、蕭寂たる幽境」の竜宮で、かすかな琴の音が聞こえる。浦島さんが、亀にその曲をたずねると、亀はひと言「聖諦」と答えた。

−−菊の露。薄ごろも。夕空。きぬた。浮寝。きぎす。どれでもない。風流人の浦島にも、何だか見当のつかぬ可憐な、たよりない、けれども陸上では聞く事の出来ぬ気高い凄(さび)しさが、その底に流れている。  −−

 この“聖諦”が、どう太宰に結びつくのか。
 実は、太宰の死に結びつくのである。

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